老後2,000万円問題をきっかけにiDeCoやNISAを始めた方が、次に視野に入れるのが不動産投資、とくに中古アパートです。「価格が低い分リスクが小さい」「すでに入居者がいるから手堅い」——そんな声をよく耳にします。ただ、不動産仲介に15年いた経験から正直に言うと、この"常識"に乗っかったまま動いて後悔した方を、私は相当数見てきました。

「安く買えた」のに、なぜ手元のお金が減っていくのか

中古アパートが新築より安い最大の理由は、建物が古いからです。当たり前のことですが、ここから目を背けると数字がねじれます。たとえば築22年の木造アパートを1,500万円で購入し、表面利回り10%に見えたとしても、その数字には大規模修繕の費用が含まれていません。

外壁塗装、屋根の防水処理、給排水管の更新——これらを積み上げると、10〜15年のうちに200〜400万円を追加投入するケースも珍しくありません(物件の築年数・状態・立地により大きく異なります)。「安く買った」はずが、実質コストは新築とほぼ変わらなかった、というのは決して極端な話ではありません。

私自身、仲介担当として初めてこの計算を目の当たりにしたとき、「表面利回りだけ見て勧めていた自分は何だったのか」と恥ずかしくなった記憶があります。利回りの数字は修繕費を織り込んで初めて意味を持ちます。

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「入居者付き」は安心材料ではなく、制約条件です

オーナーチェンジ物件(入居者付きで売られる中古アパート)は「すぐに家賃収入が入る」として人気があります。短期的な空室リスクは確かに低い。ただ、見落とされがちな点があります。

既存入居者が退去するまで、賃料の見直しも内装のリノベーションもできません。築古物件に古い家賃水準の入居者がいる状態は、将来の改善余地が極めて限られているとも言えます。退去後のリフォーム費用と空室期間が重なった瞬間に、キャッシュフローが一気に悪化するシナリオは想定しておく必要があります。「安心」ではなく「身動きが取れない期間がある」と捉えるほうが、現実に近い認識です。

節税目的で動いた後、減価償却が切れると何が起きるか

年収550万円の会社員が減価償却を使って所得を圧縮する——この発想自体は間違っていません。ただし、築22年超の木造物件は法定耐用年数を過ぎているため、独自計算で短期間に多額を計上できる場合があります。裏を返せば、減価償却が終わると節税効果が消え、税負担が跳ね上がります。

相談を受けた40代の方の事例(モデルケース)では、購入後3年間は年間30〜40万円程度の節税効果があったものの、減価償却終了後に課税所得が増え、手取りキャッシュが購入前より減った、という結果になっていました。減価償却はあくまで所得圧縮の"時間差効果"であって、税の永続的な免除ではありません。動く前に税理士と出口までの試算を確認することを強くすすめます。

中古アパートを否定したいわけではなく、確認すべき3点があります

立地が優れていて、建物の状態が精査できて、修繕費の見通しが立っていて、融資条件もクリアできる——この条件が揃えば、中古アパートは有力な選択肢です。問題は「安いから入りやすい」という理由だけで判断したときです。

成果を出している方と後悔している方の差は、物件の値段よりも「修繕履歴と管理状態をどこまで調べたか」にあります。売主が何年管理していたか、修繕記録が残っているか——この2点を確認するだけで、かなりのリスクを事前に弾けます。加えて、減価償却の出口シナリオ(いつ、いくらの税負担が来るか)を数字で持っているかどうかが、3点目の分岐点です。

比較対象として、別の構造を持つ選択肢も一度見てみてください

中古アパートと並べて検討されることが増えてきたのが、トレーラーハウスを使った小規模宿泊投資です。弊社PACOが扱う木造2×4構造のモデルでは、1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多い(モデルケース。物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により上下します)ものの、減価償却の仕組みが中古アパートとは異なり、Airbnbなどの短期貸しと組み合わせた運用が想定されます。

「どちらが優れているか」という話をしたいわけではありません。選択肢を一つに絞らず比較の俎上に乗せることで、判断の精度が上がる——それだけです。中古アパートのロジックを深く理解した上で選ぶなら、それは十分に根拠のある判断です。

次の小さな一歩:3〜6ヶ月で情報を揃えてから動く

「中古アパートは安全」という前提をいったん横に置いて、①修繕履歴・管理状態、②減価償却の出口シナリオ、③退去後のキャッシュフロー悪化シナリオ——この3点を確認してから動く。それだけで判断の質はかなり変わります。iDeCoやNISAで積み上げながら、情報を集める時間を3〜6ヶ月かけて使う。焦る必要はありません。

よくある質問

中古アパートの修繕履歴は、どうやって確認できますか?

売主または管理会社に「修繕記録台帳」の開示を求めるのが基本です。書面が存在しない場合は、管理状態に懸念がある可能性があります。購入前に建物検査(インスペクション)を入れることも有効な手段の一つとされており、費用は5〜10万円程度が相場ですが、物件規模や調査範囲によって異なります。

年収550万円でも不動産投資ローンは通りますか?

金融機関や物件の属性によって審査基準は異なり、勤続年数・自己資金・既存のローン残高などが総合的に判断されます。「年収○○万円なら通る」という一律の基準はなく、まず金融機関への相談が現実的な第一歩です。住宅ローンを持っていない状態は、融資審査上プラスに働くケースもあるといわれています。

減価償却が終わった後の税負担増は、どう対処すればいいですか?

減価償却期間が終わる前に売却して次の物件に組み替える「ローテーション戦略」を採る投資家もいます。ただし売却タイミングの市況リスクや譲渡税の問題もあるため、事前に税理士と出口戦略を含めた試算をすることが不可欠です。個別の状況によって最適解は異なるため、一般論での判断は避けたほうが無難です。