相続で引き継いだ郊外の土地、毎年の固定資産税の納付書を見るたびに「何とかしなければ」と思いながら、気づけばまた一年が過ぎていた——そんな方は少なくないと思います。アパート経営という選択肢は頭にあるけれど、「本当に合うのか」「数字のイメージが掴めない」という状態が続いているのではないでしょうか。今回は、その霧を少しでも晴らすために、具体的な試算を一緒に見ていきます。
編集部にも、「詳細な試算をせずに建築会社の説明会に参加してしまった」という読者からの声が届くことがあります。立地の賃貸需要を確認しないまま話が進んでしまい、後から冷や汗をかいた——そうした経験談は決して珍しくありません。数字を先に見ることの大切さは、多くの事例が示しています。
「固定資産税を払うだけ」の土地、10年で何百万円が消えているか
まず現状の整理から始めましょう。郊外の遊休地、たとえば200坪(約660㎡)の更地を持っている場合、固定資産税と都市計画税を合わせて年間30〜50万円程度の負担になるケースがあります(地域・評価額によって大きく異なります)。
仮に年間40万円とすると、10年で400万円。この数字を前にすると「何かしなければ」という焦りに、ようやく現実感が伴ってきます。遊休地のコストは派手に増えるわけでもなく、静かに、着実に積み上がっていきます。
郊外200坪にアパートを建てたら、年間キャッシュフローはいくらか
一つのモデルケースを示します。あくまで試算であり、立地・建築費・融資条件・空室率などによって結果は大きく異なります。参考値としてご覧ください。
前提条件(モデルケース)
・土地:自己所有の郊外200坪(取得費ゼロと仮定)
・建物:木造2階建てアパート、8世帯、1K×8室
・建築費:約5,000万円(坪60万円前後、仕様・地域により上下)
・融資:4,500万円、金利1.8%、35年返済
・自己資金:約500万円(諸費用含む)
・家賃設定:1室あたり月5万円
・稼働率:85%(年間を通じた想定)
年間収支のイメージ
年間の家賃収入は「5万円×8室×12ヶ月×稼働率85%」で計算すると、約408万円。ここから主なコストを差し引きます。ローン返済は月々約14万円前後、年間で約168万円。管理委託費(家賃収入の5%)が約20万円、固定資産税(建物・土地合算)が約20〜25万円、修繕積立・保険・雑費で約15万円。合計すると年間のコストは概ね225〜230万円程度になるイメージです。
差し引いた年間手取りキャッシュフローは、おおよそ175〜180万円という試算になります(モデルケース)。自己資金500万円に対する投下資本利回りとしては35%前後という計算ですが、これは建築費・金利・稼働率がこのモデル通りに推移した場合の数字です。空室の長期化・修繕費の増加・金利上昇が重なれば、下振れ幅は相当大きくなります。
「アパートを建てると節税になる」は本当か——相続評価の仕組みを整理する
土地の上にアパートを建てると、相続税評価額の計算上、土地は「貸家建付地」として評価が下がります。また建物は固定資産税評価額で計上されるため、建築費よりも低い評価額になることが一般的です。これにより相続財産の評価額が圧縮され、相続税の負担が軽くなる効果が想定されることがあります。
ただし、この効果は税理士との綿密な試算が前提です。「アパートを建てれば節税になる」という話は広まっていますが、賃貸経営の実態が伴わないまま形式だけ整えても、税務署から否認されるリスクはゼロではありません。節税目的が先行しすぎた事例では、後から課税関係を見直された例も報告されています。必ず相続税専門の税理士に確認することをお勧めします。
郊外立地で「入居者が本当に来るか」——現場の知見から言えること
不動産仲介の現場で繰り返し確認されてきたのは、「立地の読み間違い」が収支を最も大きく狂わせるということです。郊外の土地でアパート経営を検討する場合、まず確認したいのは周辺の賃貸需要です。具体的には、最寄り駅からの距離、車社会かどうか、近隣の工場・病院・学校などの雇用・就学の核となる施設の有無、そして周辺の空室率の実態です。
たとえば、駅から徒歩30分でも、半径2km以内に製造業の工場が複数あり、単身赴任者の需要が見込めるエリアでは、稼働率90%超を維持しているアパートが実際に存在します。一方、人口流出が続く市街化調整区域に近いエリアでは、新築でも竣工直後から空室が埋まらないケースが出ています。
市区町村の人口動態データと、エリアの賃貸仲介店舗への直接ヒアリングが、最も地道で有効な方法として現場では重視されています。ネット上の情報だけで判断するのは、リスクが伴います。
アパートの前に、まず税理士と「現状の数字」を並べてみる
いきなり建築会社に相談する前に、税理士と「相続税シミュレーション」を一度やってみることをお勧めします。現状の評価額、建物を建てた場合の評価額、キャッシュフロー試算を並べると、「本当に今アパートを建てるべきか」「別の活用法の方が合っているか」が見えてきます。
「アパートほどの規模感ではなく、小さくテストしてみたい」という場合は、トレーラーハウスを活用した宿泊施設運用(PACO INVESTが手がける形態)という選択肢もあります。1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(モデルケース/物件仕様や立地で変動)、アパートとは初期投資の規模も運用形態も異なります。土地の一部を使って小規模に試す方法として、関心を持つ方もいらっしゃいます。全員に合う手法ではありませんが、選択肢の一つとして知っておいて損はないと思います。
よくある質問
郊外の土地でもアパート経営は成立しますか?
立地条件によって大きく異なります。駅から遠くても、自動車社会のエリアで近隣に安定した雇用施設(工場・病院・大学など)があれば、賃貸需要が見込めるケースがあります。逆に、人口減少が加速しているエリアや競合物件が多いエリアでは、稼働率が想定を大きく下回るリスクがあります。エリアの賃貸仲介会社への直接ヒアリングを、まず最初の一手として強くお勧めします。
アパートを建てると本当に相続税が減りますか?
貸家建付地評価や建物の固定資産税評価額の適用により、相続財産の評価額が下がる効果が想定されることがあります。ただし、効果の大きさは現在の財産構成や土地評価額によって異なり、税制改正の影響を受ける場合もあります。また、賃貸実態が伴わない節税スキームは否認リスクがあります。必ず相続税専門の税理士とシミュレーションを行ってから判断されることをお勧めします。
融資は受けられますか?土地は持っていますが、年金収入しかありません。
自己所有の土地があることは融資審査において有利に働くケースがあります。一方、年金収入のみの場合は返済能力の評価が厳しくなる金融機関もあります。地方銀行や信用金庫では担保評価を重視した融資を行うところもあるため、複数の金融機関に打診してみることが現実的な第一歩です。自己資金の比率を高めることで融資条件が改善されるケースもあります。