「株と投信はある程度やってきたけど、不動産は正直よくわからない」——40代の経営者の方からこういった相談を受けるたびに、私が最初に感じるのは「入口の地図が渡されていない」という印象です。節税や資産分散の文脈で中古アパートが候補に上がるのは自然ですが、「何から確かめればいいのか」という問いに答えてくれる情報が少ない。今回は、相談の場で実際によく出てくる4つの疑問に、できるだけ正直に答えます。
新築より「中古」を選ぶのは、本当に得なのか?
同じエリア・同じ規模で比較した場合、新築アパートの表面利回りが5〜6%のところ、築10〜15年の中古なら7〜9%台で出てくるケースがあります(モデルケース。市場状況・立地・物件仕様によって大きく変動します)。価格が下がっている分だけ利回りが高く見えるのは確かです。
ただし、中古には修繕コストという現実がついてきます。屋根・外壁・給湯器・エアコン——築年数が進むほど交換時期が重なりやすく、「表面利回り8%のつもりが実質5%だった」というのは珍しくない話です。私自身、初めてアパートを購入したとき、修繕積立の試算が甘くて1年目に外壁塗装の費用が丸ごと飛びました。中古を選ぶなら「修繕履歴の確認」と「大規模修繕のタイミング試算」を先に済ませることが、後悔を減らす最短ルートです。
「節税になる」は本当か——減価償却の構造と、その後に来るもの
不動産投資における節税の主軸は「減価償却」です。建物部分を耐用年数に応じて毎年費用として計上できるため、帳簿上は赤字になりながら実際のキャッシュは手元に残る——という構造が生まれることがあります。年収1,800万円クラスの方であれば所得税・住民税の実効税率が50%前後になるケースもあり、この圧縮効果が相対的に出やすいとされています。
ただし「節税できると聞いたから買った」という動機だけで進めると、減価償却が終わった後の手取りキャッシュが想定より少ない、という場面に直面するケースがあります。節税額は物件の構造・築年数・ローン金利・所得構成によって変わるため、「減価償却を活用した所得圧縮効果が想定される」という表現が現実に近い。税理士との事前シミュレーションは、省略できないステップです。
融資はどう動くのか——自己資金2〜3割を求められるケースとは
中古アパートの融資条件は、物件の築年数・構造・立地・申込者の属性(法人の決算内容や個人の信用情報)によって大きく変わります。築古木造は銀行の担保評価が出にくく、フルローンを組むことが難しいケースが多く、自己資金2〜3割を求められる場面もあります。
年商1.5億円規模の法人であれば、法人融資として組める可能性を検討できる場合もあります。ただし「必ずそうなる」わけではなく、複数の金融機関に打診してみるまで条件は読めないのが現実です。私がアパートを買ったとき、地銀3行に打診して金利・期間・自己資金の条件がすべて異なっていたことに、正直驚きました。1行だけで判断するのは、もったいない。
「売れないリスク」は、損切りできないリスクと同義である
中古アパートの出口戦略は、入口より難しいと私は感じています。特に地方の築古物件は、売りたいタイミングで買い手がつかないリスクがある。都市部の区分マンションと比べると流動性が低いケースが多く、「損切りの選択肢が取りにくい」という意味でもあります。
購入前に「10年後、このエリアで誰が買い手になるか」を想像してみることをお勧めしています。賃貸需要だけでなく、売却需要があるかどうか——その両面で立地を見ることが、後悔を減らす一歩になるケースが多いです。「スピードと確実性」を重視される経営者の方ほど、この流動性リスクは入口の段階で正直に把握しておく必要があります。
「なんとなく節税になりそう」という入口が、いちばん危ない
中古アパート投資は、条件次第で資産形成の選択肢になりえます。ただし「節税になりそう」「利回りが高そう」という曖昧な動機で進めると、修繕コストや流動性リスクに足をすくわれるケースがあります。
まず手をつけるとすれば、「投資の目的」を言語化することです。節税なのか、毎月のキャッシュフローなのか、相続対策なのか——それによって、物件の選び方も融資の組み方も変わります。私自身、アパートを経てトレーラーハウス投資も並行していますが、それも「どちらが優れているか」ではなく「自分の目的に合っているか」で選んできた結果です。比較する時間を、焦らずとってみてください。
よくある質問
中古アパートは築何年以内を目安にすればいいですか?
一概には言えませんが、銀行融資の観点では「法定耐用年数(木造22年)の残存年数」が融資期間に影響するケースがあります。築20年を超えると融資期間が短くなり、月々の返済負担が増えることも想定されます。修繕履歴の確認しやすさや大規模修繕のタイミングを踏まえると、築10〜15年前後が比較的検討しやすいと言われますが、物件ごとの状態と立地が優先されます。
法人で買うのと個人で買うのは、どちらが有利ですか?
税務上の取り扱い・融資条件・売却時の課税構造がそれぞれ変わるため、一概には言えません。法人で購入すると経費計上の幅が広がる面がある一方、不動産所得と法人の事業所得が混在することで決算が複雑になるケースもあります。「どちらの名義で買うか」を顧問税理士と先に議論してから物件探しに入るのが、順序として安全です。
不動産投資と株式投資は、どう組み合わせるといいですか?
株式は流動性が高い一方でキャッシュフローを生みにくく、不動産は流動性が低い一方で毎月の家賃収入が想定できる——という性質の違いを踏まえると、補完関係として考える視点があります。ただし、不動産はローンを伴う場合、資産と負債を同時に増やすことになります。レバレッジのかけ具合は、個人の財務状況と許容できるリスク幅によって慎重に判断する必要があります。明確な正解はなく、目的と財務状況に応じたケースバイケースの判断になります。