「不動産は気になっているんですが、何から始めればいいか」——経営者の方からこういった相談を受けることが増えています。株や投資信託はある程度持っている。でも不動産は未経験で、どこから手をつければいいかわからない。そういった方に、最近あったひとつの事例をご紹介させてください。

「同業の先輩がアパートを買った」と聞いて、Kさんに焦りが生まれた

先日、Kさん(45歳・中小企業経営者、モデルケース)から相談を受けました。年商は1.5億円ほどで、年収は1,800万円前後。株式・投資信託は保有しているものの、不動産は一度も経験がないというプロフィールです。

「同じ業種の先輩経営者が、節税目的で中古アパートを買ったらしくて。自分も法人税の負担を何とかしたくて、同じことを考えているんです」——これが相談の入口でした。話を聞きながら、私はひとつ確認したいことがありました。その先輩経営者が、1年後にどう言っていたかを。

表面8%が手残り3%台になるまでに、何が起きていたか

Kさんが参考にしていた先輩経営者(仮にMさん)は、約1年前に都市近郊の中古木造アパートを購入していました。表面利回りは8%台。節税と資産形成を両立できると判断しての購入だったそうです。

ところが1年後、Mさんはこう言っていたとKさんから聞かされました。「管理費・修繕積立・空室損失を引いたら、実質利回りは半分以下になっている」と。さらに、築年数が経過した物件だったため、給湯器の交換が突然発生し、その費用で年間収支がほぼ吹き飛んだ——というのが実情でした。

表面8%が実質3〜4%台になるケースは、アパート経営の現場では珍しくありません。ランニングコストや突発修繕をどこまで試算に織り込んでいたか、そこが最初の分岐点になります。正直なところ、私自身も以前、別の相談者の物件シミュレーションを手伝った際に「修繕積立を低めに見積もっていた」という見落としをしたことがあります。表面利回りの数字が良いと、つい保守的な試算が甘くなりがちです。

「節税」が動機になるとき、キャッシュフローが後回しになりやすい

Kさんのように「法人税対策」「所得圧縮」を入口にする経営者の方は少なくありません。確かに、減価償却を活用した所得圧縮効果は、課税所得が高いほど数字に出やすい面があります。ただ、それは税務上の効果であって、手元に残る現金とは別の話です。

「節税にはなった。でも手元のお金は増えていない」という構造は、実際に起こり得ます。さらに言えば、節税効果を最大化しようと築古物件を選ぶほど、修繕リスクも高くなる。この二律背反を事前に把握しているかどうかで、1年後の納得感がまったく変わってきます。

Kさんが「もう少し比較してから決めたい」と言った理由

相談の中で、私はアパート経営だけでなく、別のアセットとの比較も提案しました。たとえばトレーラーハウス投資のような、固定性や出口戦略がアパートとは異なる選択肢です。

木造2×4構造のトレーラーハウスは土地への定着資産ではないため、土地契約終了時に移動・撤去という選択肢が取れるケースがあります。Airbnb等での宿泊運用では、弊社運営実績で評価4.8を維持しているケースもあり、収益構造そのものがアパートとは異なります。初期投資は物件仕様・サイズ・立地・付帯工事によって変動しますが、1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多い(モデルケース、物件仕様や立地により上下します)というのが現状の感覚です。

Kさんは「アパートだけで考えていた視野が少し広がった」とおっしゃっていました。即決はされていませんが、それでいいと思っています。スピードを重視する経営者ほど、比較の軸を持った上で動く方が、結果として判断は早くなります。

「節税目的でアパートを検討中」なら、まず試算を2本立てにしてみる

もし今「節税のためにアパートを検討している」という段階であれば、試算を2本用意してみることをおすすめします。ひとつは管理費・空室率・修繕費・ローン返済を織り込んだ実質キャッシュフロー。もうひとつは税務上の節税効果。この2つを切り分けて把握した上で、どのアセットが自分の目的に合うかを比較する——それが遠回りのようで、最も判断を早くする進め方だと感じています。

よくある質問

不動産未経験でもアパート経営は始められますか?

始めること自体は可能ですが、収支構造や修繕リスクの知識がないまま動くと、Mさんのように「思ったより手残りが少ない」という状況になるケースがあります。まず物件の実質利回り計算と、ランニングコストの試算を自分で一度やってみることが、最初の確認として有効です。数字を自分で動かしてみると、表面利回りだけでは見えない前提条件に気づきやすくなります。

法人税対策として不動産を使う場合、個人と法人どちらで買うべきですか?

税理士との連携が欠かせないテーマです。個人所得を圧縮したいのか、法人の利益を活用したいのかによってスキームが大きく変わります。一般論として、課税所得が高い個人が購入する場合は個人での減価償却活用が議論されることが多いですが、法人スキームの有利不利はケースバイケースです。専門家への確認を先に済ませてから物件を探す順番が、後から覆るリスクを減らします。

アパートとトレーラーハウス投資で、最も大きな違いはどこですか?

「出口の選択肢」と「固定性」です。アパートは土地・建物に固定される資産のため、売却が出口の中心になります。一方、トレーラーハウスは移動・撤去が可能な構造のため、土地契約終了時に別の選択肢が取れるケースがあります。収益構造もアパート(賃貸)とAirbnb型の宿泊運用では異なるため、保有期間の想定や運用に関われる時間によって向き不向きが変わってきます。