「不動産、そろそろ本気で考えたい」と声をかけてきたのは、製造業を営む経営者仲間のTさん(仮名・45歳)でした。年商1.5億円、役員報酬は1,800万円台。法人の内部留保は潤沢なのに、資産の大半が事業と株式に集中している状態です。話を聞くほどに、これは「節税の相談」ではなく、もっと根の深い問いだとわかってきました。以下はそのやりとりをもとにしたモデルケースです(個人を特定できないよう加工しています)。
「節税したい」と言っていたTさんが、本当に怖がっていたこと
Tさんが最初に口にしたのは「節税」でした。ただ、話を掘り下げると、本当に気にしていたのは別のことでした。「自分が倒れたとき、事業以外の収入源がない」——これが本音でした。株や投資信託は保有しているものの、値動きに精神的な消耗を感じている。不動産なら家賃収入という定常的なキャッシュフローが見えやすいのでは、というイメージを持っていました。
不動産未経験の方はこの順番になりがちです。「節税」が入口になっているけれど、本質的なゴールは「資産の分散と安定」。この二つを混同したまま物件を選ぶと、後から「思っていたのと違う」が起きやすい。まずそこを整理するところから始めました。
減価償却で何が起きているか——数字で見ると見え方が変わる
Tさんが最初に興味を持ったのは、築古の木造アパートでした。耐用年数を超えた物件は、取得費用を最短4年で経費計上できるケースがあります(前提:木造・耐用年数22年超・法定耐用年数×20%の計算が適用される場合)。モデルケースとして試算すると、取得費4,000万円・耐用年数超の木造・残存価値ゼロの物件であれば、年間1,000万円の減価償却費が計上できる計算になります。
役員報酬1,800万円に対して1,000万円の帳簿上の損失を損益通算できれば、課税所得が大幅に圧縮される可能性があります。ただしこれはあくまでモデルケースであり、物件条件・個人の税務状況・融資構造によって効果は変わります。「数字が合いそう」と思った段階で、必ず税理士に確認してください。
「手残りはいくらですか」と聞く前に確認すべき3つのこと
Tさんは早い段階で「年間の手残りはどのくらいになりますか」と聞いてきました。正直に言うと、物件が決まっていない段階でこの質問に答えられる人はいません。表面利回り8%の物件でも、管理費・固定資産税・ローン返済・空室損失を差し引くと、手元に残るキャッシュが表面の半分以下になるケースは珍しくありません。
私自身も、アパート運営を始めた当初に同じ落とし穴にはまりました。毎月の収支はプラスのはずなのに、年に一度まとめて来る保険料・修繕積立・原状回復費用で収支が崩れる。ローン返済と減価償却がズレる構造を最初に理解していなかった、というのが正直なところです。Tさんには、まず以下の3点を不動産会社に必ず確認するよう伝えました。
実質利回りを読むための最低限の3点
①管理費(賃料の5〜10%程度)、②修繕費の積み立て想定(築年数・構造によって変わる)、③空室率の想定(地方エリアなら10〜15%で試算するのが安全圏)。この3つを引いたあとの数字が実質的な収益のベースになります。「表面利回り10%」という数字は、あくまで出発点にすぎません。
出口を描けない物件は、利回りが高くても手を出しにくい
Tさんが検討していた物件のひとつは、地方都市の築35年・木造・全8室でした。表面利回りは10%台。ただ、最寄り駅から徒歩20分・人口減少エリア・周辺に競合物件が多い。こういった物件は「買えても売れない」リスクが高くなります。減価償却期間が終わった後に売却で出口を作れなければ、帳簿上の利益だけが残り、譲渡税が一気にやってくる展開も想定されます。
中古アパート投資でつまずくパターンの多くは、「入口の利回り」だけを見て「出口の流動性」を確認しないことです。スピードと確実性を重視するTさんには、流動性が高い都市近郊の物件か、アセットクラスそのものを再考することを提案しました。
Tさんが「即決しない」と決めた理由、そして選んだ次の一手
Tさんはその後、中古アパートを即決するのではなく、まず自分の税務担当税理士と「不動産所得の損益通算がどの程度有効か」を試算することにしました。物件の絞り込みも、都市近郊・築20年以内・RC造または軽量鉄骨で融資が通りやすいものに方針を固めました。また、比較候補として木造2×4構造を採用したトレーラーハウス投資(PACO INVESTが扱うタイプ)も検討に入れており、固定資産税の扱いや減価償却の計算方法が中古アパートと異なる点を含めて引き続き精査中とのことです。
「全部わかってから動く」は現実には難しい。でも「何がわかっていないかを整理してから動く」は誰でもできます。Tさんが選んだのは、その順番でした。
結局、何を軸に判断すればいいのか
中古アパート投資は、設計次第で所得圧縮・資産分散・定常的キャッシュフローを同時に狙える手段のひとつです。ただし、表面利回り・減価償却期間・出口の流動性という3つの軸を揃えて読めなければ、年収が高くても「良い話を掴まされた」で終わるリスクがあります。まず税理士と自分の税務状況を確認し、次に「出口まで描ける物件か」を基準に候補を絞る——この2ステップを踏むだけで、判断の精度はかなり変わるはずです。
よくある質問
中古アパートは新築より節税効果が高いのですか?
耐用年数を超えた築古木造の場合、短期間で減価償却を計上できるケースがあり、高所得者の所得圧縮に活用されることがあります。ただし、減価償却期間が終わった後の売却時には譲渡税が発生するため、「節税効果が高い=最終的に得をする」とは一概には言えません。保有期間・出口戦略を含めて、税理士と事前に試算することをおすすめします。
年収1,800万円あれば融資は通りやすいのですか?
年収や属性が高いほど融資審査で有利に働くケースはありますが、融資可否は金融機関・物件の担保評価・法人か個人かの区分など複数の要件で判断されます。物件の収益性や立地評価が低い場合は条件が厳しくなることもあり、「年収が高ければ必ず通る」というものではありません。複数の金融機関に打診しながら条件を比較することが重要です。
中古アパートとトレーラーハウス投資、何が違いますか?
中古アパートは一般的に固定資産として登記され、不動産担保融資が活用しやすい一方、流動性や築年数によるリスク管理が課題になります。トレーラーハウス(木造2×4構造タイプ等)は土地への定着性や税務上の扱いが異なるケースがあり、固定資産税・減価償却の計算方法も変わります。どちらが適しているかは目的・資金規模・運用スタイルによって異なるため、個別の条件をもとに比較検討することをおすすめします。