規模拡大か、アセット分散か。複数物件を持つ投資家ほど、この問いの重さが変わります。特にアパート経営では「利回りの数字は把握している、でも次に何をすべきかが見えない」という状況に陥りやすい。先日、まさにその局面にいた38歳のサラリーマン投資家・Bさん(モデルケース)からご相談を受けました。今回はそのやりとりを軸に、利回りの「読み直し方」を整理してみます。
「表面7%」という数字が、ある種のフィルターになっていた
Bさんは区分マンション2戸と木造アパート1棟を保有し、合計の表面利回りは平均7〜8%ほど。「悪くない数字のはずなのに、手残りが増えている感じがしない」というのが相談の入口でした。
表面利回りと実質利回りの乖離はよく知られた話です。ただBさんのケースで改めて数字を並べると、管理費・固定資産税・修繕積立・空室損を引いた後の実質利回りは5%台前半まで落ちていました。さらに残債の返済を考慮したキャッシュオンキャッシュリターンに換算すると、3%台という計算になりました。数字そのものは正確でも、「表面7%」という言葉が判断の入口になっていたわけです。
私自身、不動産会社勤務時代に同じ錯覚を投資家の方に何度も見てきました。表面利回りを確認した時点で「調べた」気になってしまう、というのは思いのほか根深い習慣です。
2棟目を買う前に、1棟目の「出口」が描けているか
Bさんが次の一手として検討していたのは、同じエリアでの中古アパート追加購入でした。指値で利回り8%を狙えそうな物件も出てきていたとのこと。ただ気になったのは、既存アパートの「10年後の売却シナリオ」がまだ描けていないという点でした。
木造アパートは法定耐用年数22年。購入時の築年数によっては、あと10年ほどで融資の組み直しが難しくなる局面が来ます。2棟目を買う前に1棟目の売却シナリオを固めておかないと、規模拡大が「キャッシュの圧迫」に変わるリスクがあります。これは不動産会社勤務時代に繰り返し目にした展開で、当時の私も「もっと早く出口を聞いておけばよかった」と感じた案件が複数ありました。
「別のアセット」が分散ではなく補完になるとき
Bさんとの話が深まるにつれ、アパート経営とは収益構造の異なる投資先への関心が出てきました。話題に上ったのが、木造2×4構造のトレーラーハウスを使った宿泊型投資です。
初期投資は1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(モデルケース)、物件仕様・サイズ・立地・付帯工事によって上下します。想定利回りはモデルケースで10〜20%程度と言われることがありますが、Airbnb等での稼働実績や運営体制によって大きく変わります。また、建物の法的な扱いや減価償却期間がアパートと異なるため、給与所得と不動産所得の両方を抱えるBさんのような投資家には、所得圧縮効果を試算してみる価値があるケースも想定されます。
ただし、これはあくまで「補完」の話です。Bさんには「まず試算してみる、決断はその後」とお伝えしました。
「次を買う前に、今持っているものを棚卸しする」という順番
Bさんのケースで最終的にお伝えしたのは、既存アパートの実質利回り・キャッシュオンキャッシュリターン・出口想定売却価格をスプレッドシートに並べてみるという提案でした。それだけで、どこに「穴」があるかが見えてきます。規模拡大か分散かという問いは、現状の把握が終わってから立てるべき問いです。
「利回りの数字に違和感がある」というBさんの直感は正しかったと思います。その違和感を放置したまま次を買っても、同じ「手残りが増えない」感覚を繰り返す可能性があります。まず既存物件の収支を2軸で再計算してみる。それだけで、次の選択肢の見え方がかなり変わるはずです。
よくある質問
アパート経営の「実質利回り」はどう計算すればいいですか?
基本的には「(年間賃料収入 − 諸経費)÷ 購入価格」で算出します。諸経費には管理費・固定資産税・火災保険・修繕費・空室損(想定)が含まれます。表面利回りから1〜3%程度下がるケースが多く、さらにローン返済後の手残り(キャッシュオンキャッシュリターン)を計算すると、想定より低い数字が出ることがあります。前提条件によって大きく変わるため、個別の試算が必要です。
木造アパートの「出口」はどう考えればいいですか?
木造の法定耐用年数は22年です。築年数が経過するほど融資がつきにくくなる傾向があるため、買い手が限られてきます。「いつ・誰に・いくらで売れるか」という出口シナリオは、購入前から逆算しておくことが一般的に推奨されています。エリアの人口動態や周辺の取引事例を定期的に確認しておくと、タイミングを逃しにくくなるケースがあります。
トレーラーハウス投資はアパート経営とどう違うのですか?
大きな違いの一つは「移動できる構造物」という点です。土地への定着が前提の建物と異なり、固定資産税や法的な取り扱いが変わるケースがあります。また、Airbnb等の短期宿泊運用を前提とした収益モデルが多く、アパート経営とは収益の立て方や運営コストの構造が異なります。いずれも前提条件によって収支は大きく変わるため、自分のポートフォリオとの相性を個別に試算することをお勧めします。