区分マンション2戸とアパート1棟。ここまで積み上げてきた方が次に直面するのは、「同じ路線を走り続けるか、別の道を開くか」という問いです。アパート追加は「勝ちパターンの延長」に見えますが、融資枠の消費ペースや出口の重なりを考えると、3棟目の判断は1棟目より慎重さが要ります。
「これまで上手くいったから同じ手法を」——その思考のクセが融資枠を食い尽くす
既存投資家が陥りやすいのは、成功体験をそのまま繰り返す判断です。ただ、アパートを積み重ねると融資残高が膨らみ、次の物件で受けられる条件が初期より厳しくなるケースは珍しくありません。年収800万円で2戸+1棟を保有している状態であれば、金融機関側から見た「債務残高÷年収」の比率がすでに一定水準に達している可能性があります。
問題は規模の拡大それ自体ではなく、同一アセットへの集中によるリスクの重なりと、融資枠の配分です。次の一手を選ぶ前に、まず手元の数字を整理することから始めてみてください。
アパート3棟目を加えたら手残りはいくらか——前提を固めた試算
あくまでモデルケースです。個人の与信状況・物件条件・金利によって結果は大きく変わりますので、参考値としてご覧ください。
試算の前提条件
物件:築10年・木造・8室(1K、月賃料5万円/室)/所在地:地方政令市郊外/購入価格:5,500万円/表面利回り:7.2%/融資条件:金利2.0%・返済期間25年・自己資金10%(550万円)/管理委託:賃料の5%
年間収益の内訳(満室想定)
年間賃料収入は480万円(5万円×8室×12ヶ月)。ここから管理費24万円、固定資産税・都市計画税(概算)30万円、火災保険・修繕積立金(年均等)30万円、空室損(想定稼働率90%)48万円を差し引くと、実質収入はおよそ348万円。ローン返済額(元利均等・年間)は約255万円なので、年間手残りはおよそ93万円という計算になります。
表面利回り7.2%に対し、手残りベースでは購入価格比1.7%程度。よく言われる「表面と実質の乖離」がここにも出ています。550万円の自己資金を投じてキャッシュフロー93万円——これが現実のラインであることは、頭に入れておく価値があります。なお、修繕費の突発的な発生(たとえば給湯器交換が1台あたり15〜20万円程度)で、この数字は簡単に吹き飛ぶ年もあります。
10年後の出口を想定すると
築20年木造アパートの売却を想定すると、残債約3,500万円に対して売却価格が4,000万円前後というシナリオが現実的なレンジです(立地・管理状況によって大幅に変わります)。売却益500万円+10年間のキャッシュフロー累計930万円で、投下自己資金550万円に対するトータルリターンは約1,430万円——ただし、修繕費の追加発生や空室率の悪化で大きく変動するモデルケースです。
別アセットを混ぜると何が変わるか——手残り以外の効果
数字だけを比較すると、アパートの追加が「無難」に見える局面もあります。ただ、アセット分散には手残り額以外に効いてくる要素があります。
その一つが融資枠の配分です。アパートを積み増す場合、通常は不動産担保融資を使うため、融資残高が増加し続けます。一方で、たとえばPACOのトレーラーハウス投資のような動産扱いの物件は、融資の種類が異なるケースがあり、不動産融資枠を温存しながら投資規模を広げられる可能性があります(条件は金融機関により異なります)。
運用形態の分散という観点では、通常の中長期賃貸とAirbnb等の短期宿泊を組み合わせることで、空室リスクの性質が変わる場合があります。単価と稼働率のバランスは中長期賃貸とは異なる管理コストや手間が伴いますが、ポートフォリオ全体の収益安定性に異なる角度を加えられる可能性があります。
「同じ尺度で並べる」ことが、比較の出発点になる
アパート3棟目の追加と別アセットの分散、どちらが適切かは状況によります。ただ、比較検討するうえで重要なのは「同じ前提条件で並べること」です。表面利回り同士ではなく、自己資金・融資枠消費量・10年後の出口・減価償却による所得圧縮効果(モデルケース)を揃えて比較しないと、判断が歪みます。
筆者自身、アパートを保有しながらトレーラーハウスへの分散を検討したとき、最初は「そもそも比較できない」と思い込んでいました。試算の前提を揃えることを後回しにして感覚で判断しようとしたのが、振り返ると一番の遠回りでした。前提を揃えてみると、思ったより並べやすかった。「どちらを選ぶか」より「どう並べて見るか」の方が、判断の質を上げてくれます。
まず手元の3物件の「現在地」を数字で把握する
手元の3物件の「実質手残り」と「残債・融資枠の現在地」を一覧化してみてください。どのアセットが手残りを生み、どれが融資枠を消費しているかが見えると、「次に何を足すか」の選択肢が自然と絞られます。外部のシミュレーションを見る前に、自分のポートフォリオの現在地を数字で把握することが、最も無駄のない一歩です。
よくある質問
アパートを複数棟保有している場合、追加融資は通りにくくなりますか?
一般的に、既存の不動産ローン残高が増えると「債務超過リスク」として評価され、次の融資条件が厳しくなるケースがあります。ただし、保有物件の収益性や積算評価、金融機関との取引実績によって状況は変わります。メインバンクとは別の金融機関に打診するなど、複数行でアプローチすることも選択肢のひとつです。
アパートとトレーラーハウスを同じ尺度で比較するのは難しくないですか?
前提を揃えれば比較は可能です。自己資金額・融資の種類・想定稼働率・年間コスト・10年後の出口価格をそれぞれ試算すると、「手残りの差」と「融資枠消費量の差」が数字として出てきます。モデルケースの試算にはなりますが、並べることで直感だけに頼らない判断ができるようになります。
アパートの減価償却は、既存物件の節税効果と重複しますか?
複数の不動産を保有する場合、それぞれの減価償却費は合算して課税所得の圧縮に使えます。ただし、償却が進んで費用計上が減ると逆に課税所得が増加する局面も来ます。木造アパートは法定耐用年数22年と短く、中古物件では早期に償却が終わるケースもあります。税効果のタイミングと融資返済スケジュールを合わせて確認することをおすすめします(税務上の判断は税理士へご相談ください)。