iDeCoもNISAも始めた。でも、なんとなく物足りない——そんな感覚から「中古アパート投資」にたどり着く30代は少なくありません。ただ、この界隈には「こう動けば正解」という常識めいたものが漂っています。仲介会社に15年いた私が、その常識をひとつずつ確かめていきます。
「中古は利回り8〜10%」の広告、その数字に修繕費は入っていますか
不動産投資の入門記事を読むと、ほぼ必ずこう書いてあります。「新築は割高。中古の方が利回りが高く、節税にも使いやすい」。確かに新築物件は購入直後に価格が落ちやすく、利回りも低くなりがちです。中古は表面利回り8〜10%という広告も珍しくない。だから「中古一択」という空気が業界に漂っています。
ただ、仲介の現場で何度も見てきた現実は少し違うものでした。「中古が得」という命題は、条件次第で逆転することがあります。
利回りが高い物件ほど、修繕費の読みが狂いやすい
中古アパートの表面利回りが高い理由のひとつは、築年数が経って物件価格が下がっているからです。ただし、建物が古くなるほど修繕コストの予測精度も落ちます。給排水管の劣化、外壁の防水処理、屋根の葺き替え——こうした大規模修繕は、購入後5〜10年のどこかで発生することが多いです。
モデルケースとして、木造築25年・満室時家賃収入80万円/年・表面利回り9%の物件を想定してみます。この条件で大規模修繕費が300〜500万円発生すると、実質的な手残りは数年分吹き飛ぶケースもあります。「修繕積立」を計算に入れていない試算を見て判断してしまうと、後から驚くことになります。
実は私自身、仲介時代に築22年の木造アパートを「表面利回り9.5%だから悪くない」と勧めた直後、購入者の方から「外壁の防水処理で180万円かかった」と連絡をもらったことがあります。修繕履歴を事前に確認していれば防げたかもしれない、という苦い経験です。
節税の恩恵は最初の数年に集中し、出口で精算が来ることがある
年収550万円の会社員が中古アパートを買うとき、大きな動機のひとつが減価償却を活用した所得圧縮効果です。特に築古の木造物件は耐用年数が短い分、短期間で大きな減価償却費を計上できる可能性があります。所得税と住民税を合わせた実効税率が20〜30%台になる年収帯では、効果が出やすいといわれます。
ただし、これには「期限」があります。減価償却できる期間が終われば帳簿上の損失は消え、税負担が元に戻ります。さらに売却時には、減価償却で落とした分だけ「取得費」が下がり、譲渡所得が大きくなる仕組みです。節税の恩恵を受けた分、出口で精算が必要になるケースは珍しくありません。
「いつ売るか」を購入前に仮置きしておくだけで、物件選びが変わる
出口戦略を曖昧にしたまま節税だけを目的に購入すると、「売りたいのに買い手がつかない」「売ったら譲渡税が想定より大きかった」という状況になりやすいです。購入前に「何年後に、どんな条件で売るか」を仮置きしておくだけで、物件選びの基準がかなり変わってきます。
「中古アパートは買うな」と言いたいわけではない——ただ、比較軸は持っておいてほしい
立地が良く、管理状態が保たれていて、修繕履歴が追えて、出口シナリオが描ける物件であれば、30代の資産形成に機能するケースはあります。私が伝えたいのは「中古=お得」という言葉の裏側を、自分で一度確かめてほしいということです。
参考までに、私が現在運用しているのは木造2×4構造のトレーラーハウスです。1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(モデルケース・物件仕様や立地・付帯工事により上下します)、中古アパートとは異なるリスク構造を持っています。「別の選択肢がある」と知っておくだけで、中古アパートを見る目も変わることがあります。
まず「自分の数字」を1枚の紙に書き出す——それだけでいい
購入候補の物件があるなら、次の3項目を紙に並べてみてください。①表面利回りではなく実質利回り(管理費・固定資産税・修繕積立を差し引いた後)、②減価償却が使える期間と、それが終わった後のキャッシュフロー、③10年後に売るとしたら、いくらで売れそうか。この3つを概算で書くだけで、物件の「顔」がかなり変わって見えるはずです。
よくある質問
中古アパートの節税効果は、年収550万円でも実感できますか?
所得税と住民税を合わせた実効税率が20〜30%台になる年収帯では、減価償却を活用した所得圧縮効果が出やすいといわれます。ただし効果の大きさは、物件の築年数・構造・ローン金利・その他の控除との兼ね合いによって異なります。具体的な数字は税理士への確認をおすすめします。
修繕費の目安はどう見積もればいいですか?
木造アパートでは年間の修繕費として家賃収入の10〜15%程度を積み立てておくケースが多いといわれます。ただし築年数や管理状態によって大きく変わります。購入前に管理会社や建築士に現地調査を依頼し、修繕履歴を確認することが基本です。この費用を含めた実質利回りで判断することをおすすめします。
中古アパートとトレーラーハウス投資は、何が一番違いますか?
大きな違いのひとつは「撤退のしやすさ」です。中古アパートは土地・建物が固定資産として残るため、売却に時間とコストがかかることがあります。一方、トレーラーハウスは構造上移動・撤去が可能なため、立地が合わなかった場合の対応に柔軟性が生まれるケースがあります。ただしどちらも投資である以上リスクはあります。自分の資金計画と出口戦略に合った選択が重要です。