不動産投資を複数保有していると、「もう一棟追加か、別アセットへの分散か」という問いに必ずぶつかります。利回りの計算は人並み以上にできる。なのに「次に何を買うべきか」が決まらない。先日、まさにその状態で相談に来た38歳のサラリーマン投資家Cさん(相談者の事例・モデルケース、個人特定を避けるため細部を変更)の話が、その構造をよく表していたので書き留めておきます。
「表面8%、実質5〜6%」の先に隠れていたもの
Cさんは区分マンション2戸・アパート1棟を4年間運用してきた方です。年収800万円、融資余力もまだある。数字の読み方は鋭く、表面利回りと実質利回りの差は当然のこととして計算できます。
保有アパートの表面利回りは8%台。管理費・修繕積立・固定資産税・空室損失を差し引いた実質利回りは5〜6%台——本人いわく「想定の範囲内」でした。問題は、「想定の範囲内」を超えてくる修繕が年に一度は発生していたことです。給湯器交換で15万円、外壁のひび補修で30万円。個別には大きくないが、重なると年間キャッシュフローが数ヶ月分吹き飛ぶ。
私自身も以前、「修繕費は年間家賃収入の10〜15%を見込めば十分」と思っていた時期があります。実際に築12年の物件を持ち始めたら、最初の2年で設備交換が3件重なり、その前提が崩れました。Cさんの悩みは他人事ではありませんでした。
「同じ実質利回り」でも手元に残る感触がまるで違う理由
Cさんが言語化できずにいたのは、「利回りの質」とでも呼ぶべき部分です。数字は同じ5%でも、毎月ほぼ安定して入ってくる5%と、年によって3%になったり7%になったりする5%では、資金計画への影響がまったく異なります。
築年数が上がるほど設備・外壁の修繕コストは跳ね上がりやすく、地方圏では入居者属性の変化で管理の手間が増えることもある。一方、都市部の区分マンション(表面利回り4〜5%台が一般的)はキャッシュの安定性は高めですが、管理組合の意思決定に依存するリスクがあり、大規模修繕の時期に一時金を求められるケースもあります。「利回りの数字だけ見て比べていた」とCさんは振り返っていました。
「撤退できる投資かどうか」という問いが、意外と抜けていた
私がCさんに投げかけた問いのひとつが、「出口戦略をどう描いているか」でした。アパートは土地・建物が一体の資産なので、売却時には買い手の融資可否や建物の残存価値が大きく影響します。立地によっては流動性が低く、「売りたいときに売れない」状況も起こりえます。
対してトレーラーハウスのような動産に近い仕組みでは、設置場所の変更や撤収という選択肢が構造上存在します。もちろん移設費用や制約はかかりますが、「土地ごと売り切らないと動けない」という状況とは根本的に異なる。Cさんは「そういう視点で比べたことがなかった」と話していました。
3アセットを同じ尺度で並べると何が見えるか
Cさんと整理した比較を簡略化してお伝えします。前提条件によって数字は大きく変わります。あくまでモデルケースとしてご参照ください。
アパート(地方・木造・築10年以内)
表面利回り8〜10%、実質利回りは修繕費・空室率次第で5〜6%台に落ちるケースが多い。出口は立地依存で流動性にばらつきがあり、買い手の融資環境にも左右されます。
区分マンション(都市部・築浅)
表面利回り4〜5%台が一般的。流動性は高めで売却しやすい反面、管理組合の意思決定に依存するリスクがあり、大規模修繕時の一時負担が生じる場合もあります。
トレーラーハウス(PACO INVESTのモデルケース)
1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く、物件仕様・サイズ・立地・付帯工事の内容によって上下します。Airbnb等の短期運用(PACO Stayとの連携)を前提とした場合、想定利回り10〜20%というモデルケースが示されることがありますが、実態は立地・稼働率・運営コストによって個人差があります。動産的な性格から出口の選択肢が異なる一方、融資スキームは一般的な不動産担保融資とは審査の枠組みが異なるケースがあり、個別確認が必要です。
「どのアセットが優れているか」ではなく、「自分のポートフォリオに今何が足りないか」によって、合うものが変わる——というのが、この比較から見えてくることです。
Cさんが「次の一手」に選んだのは、意外にも小さな実験だった
Cさんはアパートの追加取得を一旦保留し、トレーラーハウス投資を小規模で試してみる方向で動き始めました。決め手は「規模を抑えて新しいアセットの感触をつかみたい」という一点。利回りの数字の良し悪しより、「自分が理解して運営できるか」を優先した判断です。
これはCさん固有の判断であり、すべての方に当てはまるわけではありません。ただ、「同じアセットを積み上げることのリスク集中」を意識した分散という視点は、既に複数物件を持つ投資家ほど重要度が増してくるように感じています。
「次の一手」の精度を上げる前に、まず現状の棚卸しを
利回りを軸に物件を比較する習慣は大切です。ただ、「利回りの質」——キャッシュの安定性、出口の選択肢、リスクの分散——まで含めて評価できると、次の意思決定の根拠が変わってきます。今すぐ動く必要はありません。まず自分の現状ポートフォリオのリスク集中を棚卸しするところから始めてみてはいかがでしょうか。
よくある質問
アパートの実質利回りはどうやって計算すればよいですか?
基本的な計算式は「(年間家賃収入-年間諸経費)÷物件購入価格×100」です。諸経費には管理費、固定資産税、修繕費、保険料、空室損失などを含めます。修繕費は築年数や設備の状態によって振れ幅が大きく、「年間家賃収入の10〜15%」という目安が実態と合わないケースもあります。前提条件を明確にした上で、あくまで参考値として扱うことをお勧めします。
トレーラーハウス投資はアパートと比べて融資を受けやすいですか?
融資条件は金融機関・申込者の属性・物件の評価方法によって大きく異なります。トレーラーハウスは動産的な性格を持つため、一般的な不動産担保融資とは審査の枠組みが異なるケースがあります。取り扱い実績のある金融機関や事業者に個別に確認されることをお勧めします。
既にアパートを保有している場合、別アセットへの分散は効果がありますか?
同一アセットへの集中は、そのアセット特有のリスク(空室率の変動、建物老朽化、地域経済の変化など)を集中的に受けやすくなる傾向があります。別アセットへの分散はリスク軽減の観点から検討される方も多いですが、新しいアセットには新しい知識と管理コストが伴います。「分散のためだけに動く」より、自分が理解・管理できる範囲で少量試してみるアプローチが、ケースによっては現実的です。