法人税対策や個人資産の分散を考えるとき、「不動産」という選択肢は自然と視野に入ります。なかでも中古アパートは「新築より価格が抑えられ、利回りも高く見える」——そんな第一印象を持つ方が多いのではないでしょうか。ただ、その「安全そうに見える」感覚こそ、いちばん注意が必要なところです。
「安く買えること」と「キャッシュフローが安定すること」は、まったく別の話です
「新築より安く買えるから失敗しにくい」——これは中古アパート投資でよく聞かれる前提です。取得価格が下がるのは事実ですが、それがそのままリスクの低さにはつながりません。
モデルケース(架空の設定)として、表面利回り9.2%の中古アパートを取得した場合を考えてみます。入居から6か月で給湯器が1台故障し、翌年には外壁補修が必要になると、年間の修繕費が家賃収入の18%を占めるケースも想定されます。「安く買った」はずが、キャッシュアウトが当初想定の1.5倍ほどになる——こうした展開は、構造的に珍しい話ではありません。
「安さ」に引き寄せられる前に、修繕費・空室損・管理費を差し引いた実質利回りを試算する習慣が、判断精度を上げる最初の一歩になります。
「築古ほど節税効果が大きい」——償却が終わった翌年の試算をしていますか
もうひとつ根強い常識があります。「耐用年数を超えた築古物件は短期間で全額償却できるため、節税効果が大きい」という話です。確かに、木造(法定耐用年数22年)を超えた物件を購入すれば、4年程度で減価償却が完了し、所得圧縮効果が想定されます。年収1,800万円クラスの方であれば、最高税率との組み合わせで手元感覚が変わるケースもあるでしょう。
ただし、償却が終わった後の試算を入れていますか。償却期間が終われば課税所得は跳ね上がり、逆に税負担が増えるフェーズに入ります。「節税」目的で取得した物件を、償却後も保有し続けるなら、その時点で収益性が成立しているかどうかを、あらかじめ数字で確認しておく必要があります。減価償却による所得圧縮は「期間限定の恩恵」として設計に組み込むもの——出口まで含めた試算なしに動くと、後半フェーズで想定外の税負担に直面するリスクがあります。
利回り10〜12%の物件が「長く売れ残っている」とき、何を疑うべきか
中古アパートの検討時、利回り10〜12%という数字を見ると「これは良い」と感じてしまいます。しかし、高利回り物件が市場に長く残っているとすれば、それ自体がひとつのシグナルです。買い手がいない理由が、数字の裏に潜んでいることが多い。
空室率の高い立地、管理費や修繕積立の未積み、違法建築の疑い、再建築不可の土地——こうした要素は、表面利回りには出てきません。モデルケース(架空の設定)として、利回り11%の物件を精査したところ、再建築不可かつ接道義務を満たさない土地であることが判明し、融資がつかずに断念したという事例があります。「なぜこの物件は今まで売れていないのか」という問いを、物件を気に入った後にこそ立てる習慣が、損失を未然に防ぐコツです。
中古アパートだけで完結させようとすること自体、リスクになりうる
不動産投資の手段は、中古アパートだけではありません。たとえばトレーラーハウス(木造2×4構造)は、建物の耐用年数の設定や、観光需要を背景にしたAirbnb運用(評価4.8を維持している実例も存在)といった別軸での検討が可能です。1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多い(モデルケース/物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により変動)ため、一概には言えませんが、「別の構造でリスクを分散させる」という視点は持っておいて損はありません。
中古アパートを否定したいわけではありません。「これひとつで解決」という前提を疑ってほしいのです。どのフェーズでどの手段を使うかのロードマップがあると、判断軸がぶれにくくなります。
今日やること:表面利回りの「前提」を1行ずつ書き出してみる
今すぐ物件を動かす必要はありません。まず手元にある「気になる中古アパートの情報」に対して、表面利回りの計算式の裏にある前提——想定空室率、管理費、修繕費の見込み、融資条件——を1行ずつ書き出してみてください。数字を「分解する習慣」が、不動産投資の判断精度を上げます。焦らず、でも止まらずに。
よくある質問
中古アパートと新築アパート、減価償却の仕組みはどう違いますか?
減価償却による所得圧縮効果は、主に「償却期間」と「年間償却額」の組み合わせで決まります。法定耐用年数を超えた築古の中古物件は、残存耐用年数が短いため、短期間で大きな金額を償却できるケースがあります。一方、新築は償却期間が長い分、年あたりの圧縮額は抑えめです。どちらが有利かは、保有期間や出口戦略とセットで試算する必要があります。効果は個人の税務状況によって異なるため、税理士への確認を強くおすすめします。
修繕費は年間どの程度を見込んでおくべきですか?
一般的には年間家賃収入の10〜20%程度を見込むケースが多いとされますが、築年数・構造・管理状況によって大きく異なります。モデルケース(架空の設定)では18%に達するケースも想定され、「10%で十分」という前提は楽観的すぎるリスクがあります。購入前にインスペクション(建物状況調査)を実施し、直近の修繕履歴を確認することが実態把握への近道です。試算はあくまで「仮置き」として、余裕を持たせておくことが望まれます。
不動産未経験でも、中古アパートは現実的な選択肢になりますか?
未経験だから不可というわけではありませんが、「知らないリスク」が最も大きいフェーズでもあります。融資条件の読み解き、立地の需給判断、管理会社の選定など、初期の意思決定が収益性を大きく左右します。信頼できる税理士・不動産コンサルタントと伴走体制を整えてからスタートするのが現実的です。「スピードより、問いの質」——これが不動産未経験者の最大の防衛策といえるでしょう。