「不動産は未経験だけど、そろそろ資産を分散させたい」——そう考えている40代の経営者の方から、よくこんな言葉を聞きます。「中古アパートって、やっぱり古いから怖いですよね」と。ただ、その"怖さ"の中身を具体的に分解できている方は、意外と少ないものです。
「新築=安全、中古=危険」という整理、経営者の目線で一度だけ疑ってみる
不動産業界でよく聞く通説があります。「中古アパートはリスクが高い。新築の方が堅実だ」というものです。確かに直感的にはそう感じますよね。築年数が浅い方が設備も新しく、入居者も入りやすそうで、トラブルも少なそう——。
ところが実際の数字を見ると、必ずしもそうとは言えないケースが出てきます。新築アパートの表面利回りは立地によって差はありますが、概ね4〜6%程度になることが多い。一方、築15〜25年の中古アパートを適切に仕入れた場合、同じ立地で7〜9%台の表面利回りになるケースも珍しくありません(物件の状態・立地・取得価格によって変動します)。
もちろん表面利回りだけで判断するのは危険で、修繕費や空室リスクを織り込んだ実質利回りで比較しなければ意味がない。そのことは後で触れます。ただ「新築=安全、中古=危険」という一元的な整理は、少なくとも経営の視点から見ると粗すぎると感じています。
年収1,800万円超の経営者が中古アパートの「償却スピード」を見落としがちな理由
年収1,800万円クラスになると、所得税・住民税の合計税率は50%近くに達することがあります。この水準の方にとって、減価償却を活用した所得圧縮は、資産運用というより「税コスト管理」として機能するケースがあります。
ここで中古アパートの構造的な特徴が出てきます。木造の法定耐用年数は22年です。築22年を超えた木造アパートを取得した場合、残耐用年数は「法定耐用年数×20%」で計算されるため、最短4年での償却が可能になる場合があります(木造・築22年超の場合。個別の状況により異なります)。
つまり、取得価格を短期間で損金に落とせる可能性がある、ということです。新築アパートは22年かけてじっくり償却するのが基本ですが、それでは所得圧縮効果が分散しすぎて、高税率の今この時期に効かせにくい。「今、税負担を重く感じている」という経営者にとって、この時間軸の違いは無視できません。
ただし、出口(売却時)での課税——いわゆる減価償却の「戻り税」も必ずセットで試算してください。取得時に圧縮した分は、売却時に課税所得として浮上します。短期的な節税効果だけを見て飛びつくと、数年後に予想外の税負担が来るパターンは現実に存在します。
「修繕費が読めない」——怖いのは中古であることではなく、調査をスキップすること
中古アパートへの懸念として最も多いのが「修繕費が読めない」という点です。確かにそれは事実の一面です。ただ、少し整理が必要です。
修繕費の大きな部分を占めるのは、屋根・外壁・給排水設備の3つです。これらの状態は、購入前のインスペクション(建物調査)と修繕履歴の確認で、ある程度見通せます。逆に言えば、この調査をスキップして「安いから買う」という判断こそが、修繕リスクを現実化させる最大の原因です。
経営者の方は事業でデューデリジェンスの重要性をよくご存知のはずです。アパートの仕入れも同じで、調査費用を惜しんで取得するのは、財務諸表を読まずにM&Aをするようなものです。調査コストを正当なコストとして計上できるかどうか——そこが、経験者と未経験者の判断の分岐点だと感じています。
キャッシュフロー試算、「前提」を1つ変えると結論が逆転する
試算例を一つ挙げます(モデルケースです。個別の条件により大きく変わります)。
前提:築20年・木造アパート、取得価格6,000万円(土地3,000万円・建物3,000万円)、満室想定年収500万円、表面利回り約8.3%、金利2.0%・返済期間20年の融資を利用。この条件での年間元利返済額は概算で約220万円。満室時でも管理費・固定資産税・修繕積立を引いた手残りはさほど厚くありません。さらに空室率10%を織り込むと年収は450万円程度に落ち、返済・諸費用を引いた手残りは想定よりかなり薄くなるケースも珍しくありません。
「数字が良さそうに見えたのに、手残りが少ない」——この感覚を事前に体感できているかどうかが、購入後に後悔するかどうかを分けます。実は私自身、最初に中古アパートを取得した際、空室期間と給排水の修繕費が同じタイミングで重なり、「これは試算と全然違う」と冷や汗をかいた経験があります。楽観シナリオではなく、空室率15%・修繕費を年収の10%と置いた厳しめのシナリオで検証することを強くおすすめします。
それでも中古アパートを選ぶとしたら、どこから手をつけるか
整理すると「中古アパートは危険」でも「中古の方が絶対得」でもなく、「仕入れの精度と税コスト管理のセットで成立する投資」だということです。高税率帯にいる経営者の方には、税引き後のキャッシュフローと減価償却の期間設計を組み合わせて考えることが重要になります。
「まず理解を深めたい」という段階であれば、まずは顧問税理士と「不動産取得が法人・個人どちらに向くか」を確認するところから始めるのが現実的な一歩です。そのうえで複数の物件情報をインスペクションの観点で比較する、という順番が、スピードを重視する経営者の方にも合っているのではないでしょうか。なお、物件の取得価格帯は概ね1台あたり990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多いようですが、物件仕様や立地によって大きく変動します(モデルケース)。
よくある質問
中古アパートの減価償却は、本当に節税に使えますか?
木造・築22年超の物件では耐用年数が短くなるため、短期間での償却が可能になる場合があります。所得圧縮効果が生じるケースは想定されますが、売却時には減価償却の累積額が課税所得に影響する「戻り税」が発生することも忘れてはなりません。取得前に税理士と出口シナリオも含めて試算することをおすすめします。個人の状況によって効果は異なります。
法人で取得した方が有利ですか、個人名義の方が有利ですか?
一概には言えません。法人取得は経費計上の幅が広がり、不動産所得を法人内に留保する戦略も取れます。一方、個人名義の場合は「不動産所得+事業所得」の合算で税率が決まるため、高所得の経営者では法人スキームを検討する余地が大きいケースもあります。現状の法人・個人の所得バランスと出口戦略を踏まえ、税理士への相談が先決です。
未経験でも中古アパートは運営できますか?
管理会社に委託すれば、オーナー自身が日常の入居者対応をする必要はほぼありません。ただし「任せっきりで何もしない」は、空室や修繕の問題を見落とすリスクにつながります。月次の入出金レポートを確認する、修繕履歴を記録する、といった最低限の関与は経営者として持っておきたいところです。最初の1棟を小規模から始め、運営の感覚をつかんでから拡大判断するケースが多いようです。