iDeCoとNISAを走らせて「次の一手」を探している32歳前後の方から、「アパートって節税になるって本当ですか?」という質問をよく受けます。本当です——と即答したいところですが、そこには業界で静かに広まっている"ある誤解"が潜んでいます。私自身、取材の初期にその誤解をそのまま記事にしかけたことがあります。今日はその構造を、少し丁寧に解きほぐします。
「赤字になるほど節税効果が高い」——これ、半分だけ本当です
アパート経営の節税について調べると、「減価償却で帳簿上の赤字を作り、給与所得と損益通算することで所得税・住民税が下がる」という説明に必ず出会います。仕組みとしては正しい。ただし、耳障りよく語られるときに省略されがちな前提があります。
「帳簿の赤字」と「財布の赤字」は別物だ、という点です。減価償却は実際にお金が出ていかない経費なので、帳簿が赤字でもキャッシュフローがプラスというケースはあります。しかし「節税のため」という名目で実態がキャッシュアウトしている物件を選ぶと、手元のお金が減りながら税金も払い続ける、という組み合わせが生じることがあります。「節税になる」という言葉だけで物件を選ぶのが危ういのは、この構造のためです。
空室が増えるほど"節税額"が大きく見える——その数字のカラクリ
具体的に見てみます。モデルケース:木造アパート1棟、物件価格1,500万円、耐用年数22年で減価償却費は年間約68万円(あくまで試算値、仕様・築年数・取得費の内訳により変動します)。満室なら家賃収入が入りながら減価償却で所得を圧縮できます。ところが空室が3〜4割に増えると——収入は減るのに、ローン利息・管理費・固定資産税といった経費は変わらない。帳簿赤字は拡大しますが、それは節税ではなく純粋な損失です。
「節税額が大きく見える」のは赤字が「大きいから」であって、キャッシュが溶けているサインでもあります。給与所得との損益通算で還付が来ても、キャッシュアウトの方が大きければトータルはマイナスです。「空室の多い物件ほど節税になる」という言い方が成立しない理由は、ここにあります。
「本当に機能する節税」はキャッシュフローと帳簿赤字の同時成立で設計される
節税効果が実質的に機能するのは、「減価償却による帳簿赤字」と「実際のキャッシュフロープラス」が同時に成立しているケースです。お金は入ってくるのに税務上は赤字、という状態。これが成立すると、手残りが増えながら税金も圧縮されるという状態に近づくことが想定されます。
この設計で重要な論点は3つあります。①減価償却が取れる新しめの物件か高額設備か、②空室率の低いエリア選定か、③ローン返済の「元本部分」は経費にならない、という認識です。特に③は見落とされがちで、元本返済が多い物件はキャッシュアウトが帳簿に出てこないため、節税額だけ眺めて「うまくいっている」と錯覚しやすくなります。年収550万円・課税所得330万円前後の方が損益通算で取り戻せる税額は、モデルケースで年間10〜20万円程度にとどまるケースも少なくありません。その数字とキャッシュアウトを並べてから判断することが先決です。
アパートの比較軸としてトレーラーハウス投資が挙がる、その理由
最近、アパート経営の比較軸として話題になることがあるのが、PACO INVESTが手がけるような木造2×4構造のトレーラーハウスを活用した投資です。1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により上下します、あくまでモデルケースです)、アパート1棟と比べて初期投資を分散しやすい点が特徴として挙げられます。
また、建築基準法上の「建物」に該当しないケースがあり、固定資産税や都市計画税の扱いがアパートと異なる場合があります(個別の物件・自治体の判断によるため、必ず専門家への確認が必要です)。「アパートとどう使い分けるか」という視点で情報を集めている方には、比較の一軸として知っておく価値はあるかもしれません。
「節税になるから」を理由にする前に、確認すべき3つの数字
32歳・年収550万円でiDeCoとNISAを走らせている段階なら、次のステップとして不動産を検討するのは自然な流れです。ただ「節税になるから」という理由だけで物件を選ぶのは、一度立ち止まってほしいと思います。先に確認すべきは、①手残りキャッシュフローがプラスになる物件か、②元本返済を含めた実質キャッシュアウトはいくらか、③その物件、出口(売却)で値段がつくか——この3点です。節税は結果として付いてくるものであって、目的にすると収支の判断を曇らせることがあります。
税理士への相談、収支シミュレーションの精査、売れないリスクの確認——この3点を整理してから動くだけで、3年後に後悔するシナリオはかなり減らせるはずです。
よくある質問
アパート経営の節税効果は年収いくらから意味がありますか?
一概には言えませんが、所得税率が上がる年収約695万円超(課税所得330万円超)あたりから、給与との損益通算による節税効果が体感しやすくなるケースが多いとされます。年収550万円台でも、物件の設計次第では一定の圧縮効果が想定されるケースはありますが、取り戻せる税額が年間数万円にとどまるケースもあります。必ず税理士に個別の試算を依頼してください。
中古アパートと新築アパート、節税目的ならどちらが向いていますか?
短期的な節税額だけを見ると、耐用年数が短く減価償却を早く取れる築古中古が有利に映ります。ただし築古ほど修繕リスクや空室リスクが高まるため、節税額が実際の損失を上回るかどうかは慎重な試算が必要です。「節税額の大きさ」と「実質的な手残り」は別の数字として並べて比較することをおすすめします。
住宅ローンをまだ組んでいない状態で、投資用ローンを先に組んでも大丈夫ですか?
投資用不動産のローンを先に組むと、その後のマイホーム購入時に住宅ローンの審査が通りにくくなるケースがあります。金融機関によって審査基準は異なりますが、将来の住宅取得計画がある場合は、その順序を先に整理してから投資計画を立てることをおすすめします。ファイナンシャルプランナーや銀行担当者への事前相談が有効です。