相続で受け継いだ土地に何か建てようと考えている方から相談を受けることがあります。「固定資産税が重いし、アパートなら節税にもなる」という動機はよくわかります。ただ、ハウスメーカーが持ってくる試算書を最後の行まで読んだことはあるでしょうか。私自身、以前に不動産会社で働いていたとき、試算書の「前提」欄を読み飛ばして後から慌てた経験が一度あります。今回は、アパート経営の利回りを数字で深掘りします。

表面利回り8%と実質利回り4%台——その間に何が挟まっているか

アパート経営の利回りには「表面利回り」と「実質利回り」があります。表面利回りは、年間賃料収入を建築費で割っただけの数字です。建築費8,000万円、年間賃料収入640万円なら8%。一見、悪くない数字です。

ところが、管理委託料(賃料の5〜8%程度)、固定資産税・都市計画税、火災保険料、修繕積立、空室損失——これらを差し引くと、実質利回りは同じ物件でも4〜5%台に落ちるケースは珍しくありません。この落差を最初に把握しているかどうかで、その後の経営判断は大きく変わります。

郊外・木造8世帯で数字を組むと、月のキャッシュフローはいくらか

前提条件を置いて試算します。郊外エリア、木造2階建てアパート8世帯、建築費8,000万円(土地はすでに所有)、1室月額5万円、想定入居率90%、管理委託料は賃料の6%、年間諸経費(税・保険・修繕積立)約80万円——このモデルケースで計算します。

年間賃料収入は「5万円×8室×12ヵ月×90%=432万円」。管理委託料が約26万円、諸経費80万円を引くと、手残りは年間約326万円。建築費8,000万円に対する実質利回りは約4.1%、月換算で約27万円です。

ここに融資を組むと話が変わります。8,000万円を金利1.5%・35年で借りた場合、月々の返済額は約24万円。月27万円から引くと、月のキャッシュフローは約3万円。これは入居率90%を維持できている前提の数字です。立地・賃料水準・空室率・建築費は物件ごとに異なるため、あくまでモデルケースとしてご参照ください。

「建てた当初は満室だったが、10年後に3室空いた」——長期で何が起きるか

不動産会社に勤めていた頃、このパターンを何度も見ました。築10〜15年を過ぎると大規模修繕が発生しやすくなり、費用は100〜300万円規模になることもあります。月3万円のキャッシュフローでは、修繕費の積み上がりに対応しきれないケースが想定されます。

郊外エリアでは、人口動態の変化によって空室率が想定より上昇するリスクも現実にあります。30年ローンを組む場合、完済までの間に建物が劣化し、賃料相場が下落し、修繕費が重なるという局面が重なる可能性も視野に入れておく必要があります。

減価償却で所得は圧縮される——ただし現金は別の話

「アパートを建てると節税になる」は、ある意味で事実です。木造アパートの法定耐用年数は22年で、建物部分を22年で減価償却できるため、帳簿上の所得を圧縮する効果が見込まれます。相続税の評価額を下げる効果も、一般的には認められています。

ただし、減価償却は帳簿上の処理であり、現金支出ではありません。所得が圧縮されてもキャッシュフローが薄ければ、修繕や空室への対応資金が手元に残らない、というのが現実です。節税効果と現金の流れは、必ず別々に確認してください。

アパート以外の選択肢を知った上で比較しているか

遊休地の活用策はアパートだけではありません。近年では、木造2×4構造のトレーラーハウスを使った宿泊投資という選択肢もあります。PACO INVESTが手がけるのはそうした事業で、1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多い(モデルケース)ものの、物件仕様・サイズ・立地・付帯工事の内容によって上下します。アパートとは建物の性格も融資の組み方も異なるため単純比較はできませんが、土地活用の比較検討の選択肢として知っておくことには意味があると考えています。

「利回りが高いから良い」でも「やめた方がいい」でもなく、前提条件を自分で確認した上で判断することが大切です。ハウスメーカーの試算書の「前提」の行を、一度じっくり読んでみてください。

今日できる小さな一歩:試算書の「実質手残り」を自分で計算してみる

手元に試算書があるなら、「年間賃料収入」から管理費・税金・修繕積立を自分で引いてみてください。それだけで、表面利回りの数字がどれくらい変わるか体感できます。その上で、融資条件と30年後の建物状況まで視野を広げると、判断の解像度が上がります。性急に結論を出す必要はありません。

よくある質問

郊外の土地にアパートを建てると、相続税評価額はどのくらい下がりますか?

賃貸用建物を建てると「貸家建付地」として評価額が下がります。下げ幅は路線価・借地権割合・借家権割合によって異なりますが、更地評価より1〜2割程度圧縮されるケースが多いとされています。ただし個別要件が複雑なため、税理士への相談を推奨します。あくまで参考値としてご理解ください。

実質利回りは何%あればキャッシュフローを確保できますか?

融資を使う場合、実質利回りがローン金利を1〜2%以上上回っていることが目安のひとつとされます。ただし空室率・修繕コスト・金利変動リスクを加味すると、表面利回り8%でも実質の手残りが薄いケースはあります。「何%なら安心」という単純な基準より、実質利回りとキャッシュフローを個別に試算することが重要です。

土地を持っていれば、アパート建築費は全額融資してもらえますか?

土地を担保に入れることで融資が通りやすくなるケースはあります。ただし金融機関は立地・賃料相場・収支計画を精査するため、土地があれば必ず全額融資されるわけではありません。融資条件によっては自己資金を求められることもあります。複数の金融機関に事前打診し、条件を比較することをお勧めします。