法人税対策を本格的に検討し始めた経営者の方から、「アパートの利回りって、実際どう読めばいいんですか?」という相談をよくいただきます。株式や投資信託はひと通り経験済みで、次の手として不動産を検討している方ほど、数字の読み方のズレで判断を誤りやすい。以前、私自身も表面利回りだけを見て「これは良さそうだ」と前のめりになり、実質利回りを計算し直したら別の物件の方が優位だったという経験があります。今回はその反省も含めて、正直にお伝えします。
「表面利回り8%」は、手元に8%残る話ではない
不動産広告でよく目にする「利回り8%」は、ほぼ例外なく「表面利回り」です。年間の家賃収入を物件価格で割っただけの数字であって、実際に手元に残る収益率ではありません。
実際には、管理費・修繕積立・火災保険・固定資産税・空室ロス・リフォーム費用などを差し引いた「実質利回り」で考える必要があります。経験上、表面利回りから2〜3ポイント落ちるケースが多く、「表面8%→実質5〜6%」はむしろ標準的な落差です。空室率を5〜10%で見込むだけで、計算はさらに変わります。広告の数字を見た瞬間に2〜3ポイント引いて読む習慣を持つだけで、判断の精度はかなり変わります。
年収1,800万円のケースで、減価償却の節税効果はいくらになるか
「節税できます」と断言することはこの記事ではしません。ただ、前提を明示した試算例を一つ示します。
仮に木造アパート(法定耐用年数22年)を5,000万円で取得し、建物比率を60%とした場合、年間の減価償却費は約136万円(3,000万円÷22年)になります。所得税・住民税の合計が55%前後の方であれば、このモデルケースでは年間70〜75万円程度の税負担軽減につながる計算です。ただし、個人・法人どちらで取得するか、役員報酬の水準、他の所得との兼ね合いによって効果は大きく変わります。試算はあくまで出発点であり、実際の判断は必ず税理士との個別シミュレーションで確認してください。
「経営者は融資が通りやすい」は、むしろ逆になることがある
これは誤解されやすいポイントです。サラリーマンと違い、経営者は法人の決算内容が個人の融資審査にも影響します。節税目的で役員報酬を低く抑えている場合、個人の所得として評価される数字が小さくなり、融資評価が下がるケースがあります。以前、年商2億円超の経営者が個人名義のアパートローンで想定外に苦戦したという相談を受けたことがあります。「稼いでいるのに通らない」という状況は、経営者には起こりやすい。
対策の一つとして、法人での物件取得を検討する方法があります。法人融資は個人とは異なる審査軸で動きますし、経費計上の幅も広がります。ただし、法人保有には別途コスト・リスクも生じます。税理士・司法書士・融資担当者の三者に事前相談するのが、遠回りのようで結果的に早い進め方です。
アパートとトレーラーハウス、「撤退できるかどうか」という視点
私自身、アパート経営を経験した後にトレーラーハウス投資を始めたので、両方の感覚をお伝えできます。アパートは融資を組みやすく、相続税評価の圧縮効果も想定されやすい半面、土地・建物が固定されるため、方針転換が難しい。「やっぱり違った」と気づいたときの出口が限られます。
トレーラーハウスは構造上、移動・転用が可能な点が異なります。私が運用しているものは木造2×4構造で、宿泊運用に特化したタイプです。初期投資は1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多いですが、物件仕様・サイズ・立地・付帯工事によって上下します。想定利回りはモデルケースで10〜20%程度のケースもありますが、立地・稼働率・運営体制によって大きく異なります。アパートと比較して「撤退できる構造になっているかどうか」は、心理的な余裕に直結すると感じています。
「どの物件か」より先に、「何を前提にした数字か」を揃える
スピードを重視する経営者ほど、数字の前提が揃う前に動いてしまうリスクがあります。表面か実質か。空室率はいくつで見ているか。修繕費の見込みは。融資条件は。前提が違えば、同じ「利回り8%」でも別物です。一つずつ確認してから比較する姿勢が、結果として意思決定を速めるケースが多い。
不動産投資を検討しているなら、まず信頼できる税理士・FPに現状の税務シミュレーションを依頼することが最初の一手です。「どのアセットを選ぶか」はその後の話です。
よくある質問
実質利回りは何%あれば、投資として成立しますか?
一概には言えませんが、実質利回りが5〜6%を下回ると、ローン金利・管理費・修繕費を差し引いた手残りがほぼゼロになるケースが多いです。「利回りの高さ」より「何年でキャッシュフローが安定するか」を確認する方が、実際の判断には役立ちます。地域・物件種別・ローン条件によって正解は変わります。
法人と個人、どちらで取得する方が税務上有利ですか?
年収・法人規模・取得物件の規模によって答えは変わります。個人取得は減価償却による所得圧縮効果を得やすい一方、法人取得は経費の幅が広く、相続対策の組み方も変わります。どちらが有利かは、税理士との個別シミュレーションなしに判断するのは難しく、この記事では断言しません。
トレーラーハウス投資は、アパートより融資が通りにくいですか?
一般的に、トレーラーハウスはアパートより融資の選択肢が限られるケースが多いです。ただし、自己資金比率を高めることで対応できるケースもあります。融資の可否は金融機関・物件・申込者の属性によって異なりますので、個別に確認することをお勧めします。