NISAとiDeCoは始めた。でも、もう一段上の資産形成がしたい——そう考えたとき、「まずは中古アパート投資」という答えに行き着く方は多いと思います。「新築より安い」「利回りが高い」「節税にもなる」。どれも間違いではないのですが、仲介の現場にいた15年間で、この"常識"を信じたまま動いた方が5年後に首をかしげるケースを、何度も見てきました。実は私自身も、最初に中古アパートの数字を並べたとき、修繕積立をほぼ見落としていました。後から試算し直して、手元に残るキャッシュフローが月3万円ほど変わることに気づいたのは、かなり恥ずかしい経験です。

「中古は安い」は正しい。でも「だから安全」は、まったく別の話

不動産投資の入門書には必ず「中古物件は取得価格が低いので、同じ家賃収入でも利回りが高く見える」と書いてあります。これ自体は正しい。ただ、落とし穴は"見える"という部分にあります。

木造の法定耐用年数は22年。築25年の物件を購入した場合、税務上の減価償却期間は最短4年(耐用年数超過物件の計算式による)になるケースがあります。「短期間で一気に経費計上できる」と聞くと得に思えますが、4年後には減価償却が終了し、帳簿上の利益が一気に増えます。節税効果が薄れる時期と、外壁・給排水まわりの修繕が本格化する時期が重なりやすい。「節税のために中古を買った」はずが、5年目以降に税負担と修繕費が同時に重くなる——という逆転が、現場では珍しくありません。

「築古×高利回り」の物件に潜む、もう一本の計算式

モデルケースで確認してみます。「築22年・木造・取得価格2,500万円・表面利回り9%・年間家賃収入225万円」という想定です。

表面利回り9%でも、実質利回りを出すにはここから固定資産税・管理費・空室損・修繕積立を引く必要があります。築22年クラスだと修繕積立は年間家賃収入の15〜20%を見ておくのが現実的で、このモデルケースでは実質利回りが6%台に落ちる想定になります(物件状態・エリア・管理体制により変動します)。

さらに融資を使えば金利・元本返済が加わります。自己資金を一定額入れたとしても、手元に残るキャッシュフローは月数万円というシナリオは十分ありえます。年収550万円の方が所得圧縮目的で動いた場合、効果は最初の数年に集中します。その後の出口(売却)を設計しておかないと、減価償却が終わった物件を誰かに売るという難題だけが残ります。

減価償却が「武器」になるのは、売り時まで逆算して設計したときだけ

中古アパート投資が「悪い」と言いたいわけではありません。減価償却の短期集中は、使い方によっては有効な手段です。ただ、それが機能するのは「売却タイミングと税率差を計算した上で設計している場合」に限る、というのが正直なところです。

32歳・年収550万円であれば、所得税・住民税の合算実効税率は概ね20〜30%程度のレンジ(個人の控除状況により異なります)。減価償却で所得を圧縮しても、売却時には「譲渡所得」が発生します。所有期間5年以内の短期譲渡なら課税率は約39%、5年超なら約20%——この差を事前に織り込んでいないと、節税のつもりが「課税の先送り」で終わるケースがあります。買う前に一度、「5年後に売るとしたら税引き後でいくら残るか」を試算しておくことを強くおすすめします。

「出口が詰まりにくいか」という問いは、どんな物件を見るときにも使える

一つの視点として、私がトレーラーハウス(PACO INVESTの木造2×4構造)に関心を持ったきっかけも、ここにあります。建物の法定耐用年数と実際の運用期間、そして移動・撤去できる構造上の特性が、出口設計の選択肢を増やしてくれる可能性があると考えたからです。投資額は1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(モデルケース/物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により上下します)、万能ではありません。ただ「出口が詰まりにくい構造かどうか」という問いは、中古アパートを検討するときにも共通して使える視点だと思っています。

気になる中古アパート物件があるなら、まず「減価償却が終わった後の実質手取り試算」を紙に書き出してみてください。数字が合わなければ、無理に進める必要はありません。良い物件は、計算すればするほど納得感が増すものです。逆に、深く計算する前に「早く決めないと」と急かしてくる話には、一度立ち止まる価値があります。

よくある質問

中古アパートの減価償却期間はどう計算するのですか?

木造の法定耐用年数は22年です。法定耐用年数を超えた物件の場合、「法定耐用年数×20%」が残存耐用年数となります(例:木造なら22年×20%=4年)。耐用年数の一部が残っている場合は別の計算式が適用されます。個人の状況によって取り扱いが異なるため、具体的な計算は税理士への確認をおすすめします。

年収550万円の会社員が中古アパートで節税するとき、何を一番先に確認すべきですか?

減価償却が終わった後の課税所得の変化と、売却時の譲渡所得課税(所有5年以内は約39%、5年超は約20%)との兼ね合いを、購入前にセットでシミュレーションしておくことが重要です。所得圧縮の効果は最初の数年に集中しやすく、その後は逆に税負担が増えるケースがあります。個人の控除状況・融資条件・物件状況により結果は変わるため、あくまでモデルケースとして捉えてください。

住宅ローンをまだ組んでいない状態で、アパートローンを先に組むと影響はありますか?

アパートローンを先に組むと、後から住宅ローンを借りる際の審査に影響が出るケースがあります。借入総額や返済比率を金融機関が確認するためです。将来の自宅購入を視野に入れている場合は、ライフプラン全体をふまえて順序を検討することをおすすめします。金融機関の審査基準は各社異なるため、事前に個別相談しておくと安心です。