先日、知人のBさん(45歳・中小企業経営者、以下モデルケース)から夜に電話がかかってきました。「税理士に不動産投資を勧められたんだけど、中古アパートって本当に大丈夫なの?」——そういう相談でした。年商1.5億円規模の会社を経営されていて、法人税と個人の所得税が重なる状況。正直、私自身も15年間不動産会社に在籍していた頃、同じような相談を何度も受けてきました。そのときに伝えた内容をここに書きます。
「節税になる」は事実。ただし、それは買っていい理由にはならない
Bさんの税理士が勧めていたのは、築25年・木造・表面利回り9%という中古アパートでした。木造建物の法定耐用年数は22年。築25年であれば残存耐用年数の計算上、短期間で減価償却を計上できるケースがあります。所得圧縮の効果は、数字だけ見れば確かに出ます。
ただ、私が「ちょっと待ってください」と言ったのはここからです。減価償却期間が終わったあと、その物件はどうなりますか? 節税効果が出るのはおよそ5〜6年。その後は通常通り課税される上に、築30年超の修繕費という別の重荷が乗ってくる可能性があります。「節税になる」は正しい。でも、それは入口の話でしかありません。
「9%」が手元に届くまでに消えていくもの
表面利回りは「年間家賃収入 ÷ 購入価格」の単純計算です。ここから引かれるものを並べると、実感が変わります。管理費・修繕積立・固定資産税・火災保険・空室損失(地方では長期化するケースも)、そして融資を使えば利息。築古木造では実質利回りが表面から3〜4ポイント落ちることは珍しくありません。モデルケースで試算すると、表面9%が実質5〜6%台になる構造は十分あり得ます。
Bさんに伝えたのは「9%という数字がどういう前提で出ているか、一つずつ剥がしてみましょう」ということでした。満室・修繕ゼロ・空室ゼロが重なった条件で成立している数字であれば、現実の手取りはかなり異なる可能性があります。
余談ですが、私が不動産会社にいた頃、表面利回りだけを見て購入を決めた方が翌年に大規模修繕で数百万円の出費を迫られる場面を複数回見ています。「利回りの高さ」と「修繕リスクの高さ」は、築古物件では同じコインの裏表です。
Bさんが本当に求めていたのは「節税」ではなかった
会話を続けていくうちに気づいたのですが、Bさんが求めていたのは節税そのものではなく、「本業が揺れたときのキャッシュフロー源泉」でした。会社の業績が波を打つ中で、個人として安定した収入の柱を持ちたい——そこが本音でした。
そうなると、節税期間が終わった後もキャッシュが生み出せる構造かどうかが重要になります。修繕コストが読みにくく、出口(売却)時に買い手がつきにくい物件を持ち続けることは、資産防衛という観点でリスクになり得ます。「読めない変数が多い投資」は、スピードと確実性を重視する経営者の意思決定スタイルとは、そもそもフィットしにくいはずです。
「いざとなれば売ればいい」が通じない物件を持つリスク
中古アパートは一度取得すると、売却の際に買い手を探す必要があります。地方物件であればなおさら、流動性は低くなりがちです。「いざとなれば売ればいい」が通じにくい局面は、想定より早く来るケースがあります。
一方で、移動・転用・撤去という選択肢を持てる構造の投資商品も存在します。たとえば私が関わっているトレーラーハウス型の物件(PACO INVESTが扱う木造2×4構造タイプ)は、立地の見直しや用途変更の際に動かせるという特性を持っています。1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(モデルケース/物件仕様や立地によって変動します)、中古アパート一棟と比べて初期投資の単位が小さい分、出口の設計がしやすい面があります。
どちらが優れているという話ではなく、「出口が設計できるか」という観点を最初に持てるかどうかが、経営者として不動産投資を考える際に効いてくると思っています。Bさんには「買う前に売り方を決めてください」とお伝えしました。
Bさんが下した判断と、私が伝えた「次の一歩」
Bさんはその物件の購入を一度保留し、まず担当税理士と「減価償却が終わった後のシミュレーション」を作り直すことにしました。節税効果が出る5〜6年だけでなく、10年・15年のトータルキャッシュフローを確認する——当たり前のことですが、「税理士に勧められた」という状況では飛ばしがちなステップです。
不動産投資は情報が非対称です。売り手は良い数字を出す。私自身も不動産会社に15年いたので、それはよく知っています。焦らず、前提条件を一つずつ確認することが、スピードを重視する経営者にとっての最大のリスクヘッジだと思っています。
よくある質問
中古アパートの節税効果はどのくらい見込めますか?
築年数によって異なりますが、木造で耐用年数を超えた物件は短期間で減価償却を計上できるケースがあります。所得圧縮の効果が想定される一方、減価償却期間終了後は課税負担が戻ること、修繕費の増加が重なる可能性があることも合わせて確認が必要です。個別の税務状況によって大きく異なりますので、税理士との具体的なシミュレーション(節税期間終了後を含む10年以上のスパン)をお勧めします。
中古アパートと他の投資スキームを比較するとき、どんな軸で見ればいいですか?
「キャッシュフローの安定性」「出口(売却・転用)の設計しやすさ」「節税効果が続く期間」の3軸で比較されることをお勧めします。節税効果が大きくても、その後のフェーズでキャッシュアウトが続く構造であれば、トータルの資産防衛効果は限定的になるケースがあります。
不動産投資が初めての経営者が、最初に確認すべきことは?
「その投資から手を引きたくなったとき、どうするか」を最初に考えることです。売却・賃貸継続・転用など、出口の選択肢が複数ある投資は、経営者の意思決定に近い柔軟さを持っています。初めての不動産投資では「入り口の利回り」より「出口の設計」を先に確認することが、長期的なリスク管理につながります。