「不動産はやっておいた方がいいよ」と言われるたびに、具体的な数字がわからなくて踏み出せない——そういう方は実は多いです。アパート経営の「利回り8%」という言葉は飛び交うのに、自分の税率や諸経費を織り込んだ「実際の手残り」を示してくれる資料はなかなかない。今回は、年収1,800万円の経営者が「利回り8%のアパート」を取得した場合のモデルケースを、内訳込みで分解してみます。

「表面8%」が手元に着地するまでに、何が引かれていくのか

まず前提を整理します。今回のモデルケースは「築10年・木造・8室・満室家賃月60万円・購入価格9,000万円」のアパートを想定しています。表面利回りは満室家賃÷購入価格で計算するので、720万円÷9,000万円=8%になります。ここまでは不動産ポータルサイトに載っている数字と同じです。

ここから実態に近づけます。空室率を5〜10%と見ると、年間収入は648〜684万円程度に落ちます。管理会社への委託費(家賃の5%前後)、固定資産税・都市計画税(物件次第ですが年20〜30万円程度)、修繕積立(年10〜20万円)を差し引くと、キャッシュベースの手残りは年間500〜560万円前後というのがこのモデルケースの試算値です。立地・築年数・管理状況によって大きく変わるため、あくまで一例として読んでください。

年収1,800万円の方が不動産を持つと、税金の計算はどう変わるのか

ここが本題です。給与や事業所得が高い方にとって、アパート経営の効果は「キャッシュ収入」と「税の構造変化」の二層で現れます。木造アパートの法定耐用年数は22年。築10年の物件なら残存耐用年数12年での減価償却が適用され、建物部分(仮に5,000万円)を12年で償却すると年間約416万円の経費計上が可能になります。

年間キャッシュは前述の通り500万円以上入ってくるのに、帳簿上の不動産所得は「500万円-減価償却416万円=約84万円」になる計算です。さらに借入を使っていれば利息も経費に算入できます。年収1,800万円の方の所得税・住民税の実効税率は概ね50%前後ですから、この所得圧縮効果は数百万円規模になるケースが想定されます。ただし、税務上の取り扱いは個人の状況・税理士の判断により異なります。必ず専門家に確認してください。

「節税になるから」だけで買うと、売るときに痛い目を見る

減価償却はあくまで「課税の前借り」です。売却時には取得費が帳簿上で減っているため、譲渡益が膨らみ、税負担が後から出てきます。正直に言うと、私自身も最初に試算したとき、この出口の税負担を甘く見ていました。「利回りと節税効果だけ見て収支プラスと判断していたが、売却時の譲渡税を加えると全体収益が想定より数百万円下がる」——そういう計算のし直しを経験しています。

保有期間5年超の長期譲渡なら所得税・住民税合計の税率は約20%に下がりますが、それでも売却益次第では数百万円単位の出費になり得ます。「何年後に、いくらで売れるか」という出口の絵を先に描いておくことが、アパート経営では特に重要です。

同じ「利回り8%」でも、手残りが変わる変数はどこにあるのか

「それ自体では断言できない」というのが率直なところです。融資条件・築年数・立地・管理会社の質・自分の実効税率——この変数の掛け合わせで、同じ「利回り8%」でも手残りは大きく変わります。年収1,800万円の経営者が資産分散を目的とするなら、「物件の流動性」と「減価償却のスピード」を軸に比較検討することが現実的な入り口になると思います。

木造アパートは鉄骨・RC造に比べて耐用年数が短い分、減価償却が速く終わります。一方で建物の経年劣化も早く、修繕コストが後半に集中しやすい傾向があります。「前半で税効果を享受し、後半で物件を入れ替える」という戦略を最初から設計しておくかどうかで、10年間の収支は全然違ってきます。なお、木造構造を採用した投資商品にはアパートだけでなく、木造2×4構造のトレーラーハウス活用という選択肢も近年増えていますが、それはまた別の記事で触れます。

物件を比べるときに最初に確認すべき、たった一つの数字

「実質利回り(ネット利回り)」という概念があります。経費・空室・管理費を引いた後の収益を購入価格で割ったものです。今回のモデルケースでは、表面8%が実質5〜6%前後に落ちていました。この「表面と実質の差分」を物件ごとに比べていくことが、次の一歩として最も地に足のついた作業です。どんな投資判断も、起点は数字を自分で読むことです。

よくある質問

アパート経営の「実質利回り」はどう計算するのですか?

年間の実収入(満室家賃から空室損失・管理費・固定資産税・修繕費などを差し引いた額)を物件購入価格で割って算出します。今回のモデルケースでは、表面8%に対して実質は5〜6%前後になる試算でしたが、物件の状況・地域・管理体制によって大きく変わります。見るべきはあくまで「自分の物件条件での数字」です。

減価償却の効果が特に大きいのは、どんな人ですか?

給与所得や事業所得が高く、実効税率が高い方ほど、減価償却による所得圧縮効果が大きくなる傾向があります。ただし、償却が終わると帳簿上の経費が減って不動産所得が増える点、売却時の譲渡益が膨らむ点も合わせて、税理士に相談の上で全体設計を考えることをお勧めします。

融資を使ってアパートを購入する場合、自己資金はどれくらい必要ですか?

金融機関・物件属性・借入者の属性によって条件は異なります。フルローンに近い融資が通るケースもありますが、頭金10〜20%を求められる場面が多いとされています。自己資金を抑えてスタートできるケースもありますが、あくまで審査次第です。事前に複数の金融機関に打診し、条件を比較することを強くお勧めします。