老後のために何か動かなければ、とは思っている。でもiDeCoとNISAだけでは足りない気がして、もう一段踏み込んだ手を探している——そんな状況の30代の方から相談を受けました。「節税にもなるなら、アパート経営ってどうですか?」という問いかけでした。
「節税」と「副収入」は別の話だった——まず仕組みを分解する
相談者はTさん、32歳の会社員、年収550万円のモデルケースです(本人の了承を得て紹介しています)。住宅ローンはなく、iDeCoとNISAは昨年から始めたばかり。不動産投資に興味を持ったきっかけは、職場の先輩が「アパート経営で税金が減った」と話していたことでした。
最初に確認したのは「節税」の中身です。不動産投資における所得圧縮は、主に減価償却費を活用した仕組みで、帳簿上の赤字を給与所得と損益通算することで課税所得を下げる効果が想定されます。ただし減価償却は「現金が出ていかない帳簿上の費用」なので、実際のキャッシュとズレが生じます。「節税できた」と「手元のお金が増えた」は、同義ではありません。
試算を並べたとき、Tさんが「ちょっと待って」と言った瞬間
Tさんが検討していたのは、地方都市の築18年・木造アパート(6室)、価格約4,500万円、表面利回り8%という物件でした。数字だけ見ると悪くない印象です。ところが実費を積み上げると話が変わりました。
モデルケースの前提:融資7割・自己資金1,350万円・金利2.2%・30年返済。管理費5%、空室率10%、修繕積立を月2万円計上すると、手残りキャッシュは年間でほぼゼロ、条件次第ではマイナスになるシミュレーションが出ました。物件状況や金利交渉の結果によって数字は大きく変わりますが、「節税効果はある。でも副収入はほぼ見込めないかもしれない」——それがTさんの直面した現実でした。
正直に言うと、私自身も初めてキャッシュフロー表を細かく引いたとき、表面利回りと手残りのギャップの大きさに驚きました。「利回り8%なのに手残りがほぼゼロ」というのは、知識として知っていても、数字で見ると改めて重く感じます。
築古木造を買う前に、減価償却の「残り時間」を確認したか
もう一つTさんが引っかかったのが、減価償却の残年数でした。木造の法定耐用年数は22年。築18年の物件であれば、通常の減価償却を取れる期間は残り4年分にとどまります。節税効果の高い期間は非常に短く、その後は帳簿上の黒字が増えて課税が重くなるフェーズに入るケースがあります。
「節税を目的に買う」のであれば、耐用年数が十分に残っているか、あるいは耐用年数切れ物件を意図的に短期償却で活用する戦略か、どちらかを最初に決める必要があります。Tさんはこの点を整理できていなかったため、「もう少し勉強してから判断します」と一度立ち止まることにしました。その判断は、結果的に正しかったと思っています。
Tさんが「木造トレーラーハウス」を調べ始めた、もう一つの理由
話の流れで、PACOの木造トレーラーハウス投資についても触れました。1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により変動)、アパートのように6室分の入居管理が発生しない点が特徴です。Airbnb等の宿泊運用(PACO Stay)と組み合わせる形態が多く、実際に評価4.8台を維持している運用事例もあります。ただし稼働率は立地や季節に左右されるため、「確実に稼げる」とは言えません。
Tさんが興味を持ったのは「規模感」でした。4,500万円のアパートと比べ、参入・撤退のハードルが相対的に低く、資金計画を立てやすいと感じたようです。「もう少し調べてから比較したい」と話していました。
32歳の「次の一手」は、3つを別々に考えることから始まる
Tさんとの話でいちばん強調したのは、「節税」「キャッシュフロー」「出口」の3つを切り分けて考えることです。この3つが同時にうまくいく物件は、そう多くありません。どれを優先するかを決めてから手段を選ぶ——この順序が崩れると、後から「思っていたのと違う」という状況になりがちです。
iDeCoとNISAを始めたばかりの段階で、いきなり4,000万円台のアパートに飛び込む必要はありません。まず試算を自分で引けるようになること、物件の構造と減価償却の関係を理解すること——そこから始めれば、判断の精度は着実に上がります。焦りは、不動産投資において最大のリスクの一つです。
よくある質問
年収550万円でアパートローンは通りますか?
年収だけで可否を判断することはできません。一般的に金融機関は勤続年数・自己資金比率・物件の収益性を総合的に審査します。550万円という年収が一定の基準を満たすケースもありますが、融資条件は金融機関や物件によって大きく異なります。事前に複数の金融機関へ打診し、条件を比較することをおすすめします。
減価償却が終わったアパートは、持ち続けるべきですか?
減価償却が終了すると帳簿上の費用が減り、課税所得が増えるケースがあります。ただし実際のキャッシュフローが黒字であれば、保有継続の判断もあり得ます。「節税目的で購入した物件が償却終了後にどうなるか」は、購入前から出口戦略として考えておくことが重要です。
トレーラーハウス投資は、アパート経営と何が違うのですか?
大きな違いの一つは規模感と流動性です。アパートは一棟ごとに数千万円規模の取引になることが多いのに対し、トレーラーハウスは1台単位で取り組めるケースがあります(1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジ、仕様・立地により変動)。また、Airbnbなどの宿泊運用と組み合わせる形態が多く、長期賃貸とは異なる収益モデルになります。一方でどちらも空室リスクや運営コストは存在しますので、モデルケースの前提条件を丁寧に確認することが大切です。