iDeCoもNISAも始めた。でも「もう一段」が見えない——そんなとき、中古アパート投資という選択肢が頭をよぎりませんか。節税にもなる、副収入にもなる、という話は耳にするけれど、実際の数字が見えにくい。今回は32歳・年収550万円という設定で、試算を一枚に並べてみます。
「利回り8%」は入口の数字。そこから何%消えるかを先に見る
物件情報に書いてある利回りは、ほぼ例外なく「表面利回り」です。年間家賃収入 ÷ 物件価格で計算したもので、経費も税金も引いていない。8%という数字を見て「悪くない」と感じるのは自然ですが、そこから何%消えるかを先に確認しておかないと、後で数字がずれてきます。
代表的な経費は、管理委託費(家賃の5〜8%程度)、修繕積立・突発修繕費、固定資産税・都市計画税、火災保険料、ローンの金利部分です。これらを合計すると、表面利回りから2〜3ポイント以上落ちるケースは珍しくありません。
実際の数字を並べると、何が見える?
以下はあくまでモデルケースです。実際の物件・融資条件・立地・築年数により大きく異なります。参考の一例としてご覧ください。
前提条件
物件価格:3,000万円/木造・築20年・地方都市・8室(1K)/表面利回り8%(年間家賃収入240万円)/自己資金300万円・融資2,700万円(金利2.5%・25年)/管理委託費:家賃の7%/空室率:10%想定
年間キャッシュフローの内訳(モデルケース)
実質家賃収入(空室10%控除後):約216万円。管理委託費:約15万円。ローン返済(元利合計):約145万円(うち金利部分は初年度約67万円)。固定資産税・保険等:約15万円。修繕積立(月1万円想定):12万円。合計支出:約187万円。手残り(税引き前CF):約29万円/年(月換算2.4万円程度)。あくまで試算であり、個人差があります。
月2.4万円。悪くないように見えますが、「節税になると聞いていたのに、思ったより手元が薄い」と感じる方が多いのも、この数字を見ると腑に落ちます。では節税の部分はどう機能するのか。
税金は確かに減る。でもキャッシュが増えない理由
不動産投資の節税効果の本体は「減価償却」です。築20年の木造物件は法定耐用年数(22年)から築年数を引いた残存耐用年数が短く、減価償却費を大きく計上できるケースがあります。これが給与所得と損益通算できると、所得税・住民税の負担が軽くなります。年収550万円の会社員なら所得税率は20%前後になるケースが多く、圧縮できる税額が相応に出やすいというのが、会社員に注目される理由です(モデルケース/実際の効果は個人の課税状況によって異なります)。
ただし、減価償却は「帳簿上の費用」であってキャッシュは出ていきません。税金は確かに減る。でも手元のキャッシュフローは前述のとおり。「節税で儲かる」ではなく「節税で税負担を抑えながら、細く長くキャッシュを積む」という感覚に近い——というのが、相談を受けた30代の方々の実感として多く聞く表現です。
余談ですが、私自身も最初にこの構造を整理したとき、「節税効果」と「キャッシュフロー改善」を混同して試算を組んでしまい、手元に残る数字を過大に見積もった経験があります。節税で浮いた税額をCFに足し込んで計算するのは、厳密には別の話です。
32歳のうちに「10年後に誰が買うか」を仮置きしておく理由
中古アパートで見落としがちなのが売却時の話です。築20年で買えば、10〜15年後には築30〜35年。木造の場合、銀行融資が付きにくくなり、買い手が限られてくるケースがあります。高値で出口を取れるかどうかは、立地と物件状態に大きく依存します。
相談を受けた40代の方の事例(モデルケース)では、購入から12年後に売却を検討した際、融資が付く買い手が想定より少なく、売出し価格を当初の想定より約15%引き下げざるを得なかったケースがありました。当時の試算では出口を甘く見ていた、というのが本人の振り返りです。「10年後に誰が買うか」を先に仮置きしておくだけで、物件選びの基準がかなり変わります。
なお、最近では木造2×4構造のトレーラーハウスのように、「移設・撤退が比較的柔軟にできる」という設計思想の投資形態も選択肢として存在します(初期投資は物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により上下しますが、1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多いモデルケースです)。中古アパートと比較するうえでの一つの視点として、参考程度に。
「比較できる状態をつくる」が、もう一段への近道
中古アパート投資は、数字を丁寧に読めば「判断できる」投資です。ただし表面利回りだけ見て動くのが最も危ない。まず手元に残るキャッシュフローを試算し、次に10年後の出口を仮置きする。その2ステップだけで、「この物件は買う理由があるか」がかなりクリアになります。
iDeCoとNISAで基礎をつくっている32歳なら、焦って動くより「比較できる状態をつくる」ことが現実的な次の一手ではないでしょうか。
よくある質問
中古アパートは自己資金ゼロでも始められますか?
融資条件によっては自己資金を抑えてスタートできるケースもありますが、フルローンに近い状態ではキャッシュフローが非常に薄くなりやすく、空室や修繕が重なるとマイナスに転じるリスクがあります。一般的には物件価格の1割前後の自己資金を目安に検討されることが多いですが、金融機関や物件条件によって大きく異なります。
年収550万円の会社員でも融資は通りますか?
年収550万円は融資審査の対象として検討されることはありますが、勤続年数・勤務先・他の借入状況・物件の担保評価などによって結果は変わります。「通る・通らない」はケースバイケースであり、事前に複数の金融機関に相談するのが現実的です。ローンブローカーや不動産会社経由で金融機関の傾向を確認するところから始める方も多いです。
節税効果はいつまで続くのですか?
減価償却を活用した所得圧縮効果は、減価償却期間(築古木造なら数年〜十数年)が終わると薄れていきます。その後は帳簿上の赤字が出なくなり、むしろ課税所得が増えるフェーズに入るケースがあります。「節税効果が続く期間」と「物件を保有するコスト」のバランスを長期で見ておくことが重要で、税理士への相談も含めて計画するのが望ましいと思います。