区分マンションが2戸、アパートが1棟。ここまで積み上げてきた方が次に直面するのは、意外にも「数字の霧」だったりします。表面利回りは申し分ない。融資もギリギリ通りそう。なのに、シミュレーションを重ねるほど「本当に手元に残るのか?」という疑問が消えない——そういうフェーズが、アパート経営の3棟目前後には確かに存在します。
実は私自身、最初に試算したとき「表面利回り8%なら月40〜50万円は残るだろう」と高をくくっていました。実際に数字を分解してみると、手元に残るのは月12〜13万円という結果で、思わず計算ミスを疑いました。ミスではなかったのですが。
「利回りが良い」と「手元に残る」は、別の話です
以下はモデルケースです。個別の物件・融資条件・立地によって数字は大きく変わります。前提として、築15年・木造アパート8戸、取得価格8,000万円、表面利回り8%(年間家賃収入640万円)、融資は金利2.0%・35年・LTV80%(借入6,400万円)、空室率10%と設定します。
まず年間の手取り家賃は、空室10%控除で576万円。ここから年間ランニングコストを引いていきます。管理委託費が賃料の5%で約29万円。固定資産税・都市計画税が年間約40万円(取得価格の0.5%想定)。火災保険・修繕積立を合わせて年間15万円。原状回復や突発修繕の平均積み上げとして年間20万円を確保しておくと、合計でおよそ104万円。実質収入は472万円前後になります。
「修繕積立20万円で足りるのか」と思う方もいるかもしれません。築15年の木造であれば、外壁塗装や屋根補修が10年以内に発生する可能性は低くありません。あくまで平均値としての積み上げであり、実際には年によって振れ幅が大きい項目です。
融資返済が入ると、数字の景色が変わる
借入6,400万円・金利2.0%・35年の元利均等返済では、年間返済額は概ね253万円前後(金融機関・条件により変動します)。実質収入472万円からこれを差し引くと、税引き前キャッシュフローは約219万円。月換算で18万円程度です。
ここに所得税・住民税が乗ってきます。年収800万円の給与所得者であれば、不動産所得219万円が上乗せされた際の実効税率は30〜35%前後になるケースがあります(減価償却・経費の計上状況によって変動します)。税負担を仮に65万円とすると、手元に残るキャッシュは年間154万円、月12〜13万円という試算になります。
物件価格8,000万円に対して年間154万円。自己資金1,600万円を分母にした実質的な自己資本利回りは約9.6%で、数字としては悪くありません。ただ、「利回り8%」という言葉から多くの人がイメージする水準とは、かなり異なる景色が見えてきます。
3棟目を積み上げると、なぜ「詰まる」感覚があるのか
区分2戸+アパート1棟をすでに保有している状態でさらにアパートを取得すると、金融機関の見る「債務残高」が積み上がります。年収800万円でも、既存借入の総額によっては新規融資の条件が保守的になるか、LTVを下げるよう求められるケースがあります。担保評価と収益還元のバランスで、銀行の見方が変わる分岐点が3棟目前後にあることは、現場でよく耳にします。
また、棟数が増えると管理の手間も線形以上に増えることがあります。修繕タイミングが重なるリスク、入居者トラブルの件数増加、確定申告の複雑化——これらは数字には表れにくいコストですが、フルタイムで働くサラリーマン投資家にとっては無視しづらいファクターです。相談を受けた40代の方(モデルケース)は、2棟目と3棟目の修繕が同じ年に重なり、そのタイミングで4棟目の融資審査に臨んだ結果、条件が大幅に変わったと話していました。
「規模拡大」より「アセット分散」を考えたくなるのは、数字を正直に見た結果です
同じ資本を使うなら、アパートを増やすのか、別のアセットを試すのか——この問いを持ち始めた方が増えているのは、試算を丁寧に追った結果だと思います。たとえばトレーラーハウス投資(PACO INVESTが扱う木造2×4構造のタイプ)は、1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多い(モデルケース。物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により上下します)。アパートと異なり、土地を取得せず土地オーナーと賃貸借契約で対応できるケース、動産として扱われることによる減価償却年数の短さ、Airbnb等での短期運用によるRevPAR向上の可能性——これらが別の計算式を生みます。
ただ、これもモデルケース次第です。立地や運用スキームによって結果は大きく異なります。アパートが劣っているわけでも、トレーラーハウスが常に優れているわけでもない。大事なのは、どちらの試算も「同じ粒度の細かさ」で見ることです。
次の一手を考えるうえで、まず確認したいこと
焦って動く必要はないと思っています。38歳でこの資産規模を作ってきた方なら、数字を丁寧に読む力は十分にある。まず既存ポートフォリオの実質キャッシュフローを、上記のような分解で一度整理してみてください。その上で、「拡大」と「分散」のどちらが現状の収支と融資余力に合うかを確認するのが、遠回りに見えて最も速い判断プロセスだと感じています。
よくある質問
アパート3棟目の取得で融資審査が厳しくなるのは本当ですか?
一般的に、既存の債務残高と年収のバランスを金融機関が厳しく見始めるのは2〜3棟目前後というケースが多いとされています。ただし金融機関の方針・物件の担保評価・個人の信用情報によって基準は異なります。既存のメインバンクに現状の返済比率を確認した上で、新規融資の打診を行うのが実務上の一般的な手順です。個別相談が前提になります。
サラリーマンがアパート3棟を持つと、税務上の負担はどう変わりますか?
不動産所得が給与所得に合算されるため、課税所得が増加し実効税率が上がるケースがあります。一方、減価償却費を活用した所得圧縮効果が生じるケースもあります。ただし減価償却は帳簿上の費用であり、将来の売却時に「減価償却分が戻ってくる」税務リスク(譲渡所得への影響)も存在します。税理士との事前確認を強くお勧めします。
トレーラーハウスとアパートでは、出口戦略にどんな違いがありますか?
アパートは土地・建物が一体の不動産として売却が可能で、築年数・立地・収益性が査定の軸になります。一方、トレーラーハウスは動産として扱われるケースがあり、設置場所を変更できる点が特徴の一つです。ただし動産としての流通市場はアパートに比べて小さく、売却先の確保には別の動き方が必要になる場合があります。出口を意識するなら、取得時点で想定シナリオを複数描いておくことをお勧めしています。