区分マンション2戸とアパート1棟を回している方なら、「表面利回り8%」という数字が実際の手残りとどれほどかけ離れているか、体感としてわかっているはずです。それでもポートフォリオを広げる局面では、感覚ではなく数字で現在地を確認し直すことが判断の精度を上げます。今回はアパート経営の利回り構造を、実際の試算内訳まで踏み込んで確認します。
「表面8%」が「実質5.7%」に縮む——その差はどこで生まれているのか
表面利回りは「年間満室想定賃料 ÷ 物件価格 × 100」で計算されますが、この数式には費用がまったく入っていません。管理委託費、固定資産税、火災保険料、修繕積立、空室損失——これらを差し引いた後に残るのが「実質利回り」です。経費率が25〜30%程度あれば、表面8%の物件でも実質利回りは5.5〜6%前後に落ちることは珍しくなく、表面との乖離は2〜3ポイント以上開くケースもあります。
融資を使っている場合は、さらにそこから金利負担を差し引いた「ローン返済後の手残り利回り(キャッシュオンキャッシュリターン)」が最終的な評価軸になります。
モデルケースで確認する「実際に手元に残る金額」の構造
以下はあくまでモデルケースです。物件・融資条件・立地によって数字は大きく変わりますので、参考値として読んでください。
前提条件
・物件価格:6,000万円(木造築10年、8室、地方都市)
・表面利回り:8.0%(年間賃料収入480万円、満室想定)
・融資:5,400万円(自己資金10%・金利2.2%・返済期間25年)
・年間ローン返済額:約282万円(元利均等)
収支の内訳
・年間賃料収入(満室):480万円
・空室損失(想定空室率10%):▲48万円
・管理委託費(賃料収入の5%):▲24万円
・固定資産税・都市計画税:▲12万円
・火災保険・その他経費:▲8万円
・修繕費積立(1室あたり月5,000円換算):▲48万円
→ 実質年間収入:340万円(実質利回り約5.7%)
・ローン返済:▲282万円
→ 年間手残り:約58万円(月約4.8万円)
自己資金600万円を投下して年間58万円の手残り。キャッシュオンキャッシュリターンは約9.7%ですが、これは修繕費が想定どおりに収まった場合の数字です。築10年以降は給湯器・外壁・屋根といった大規模修繕が重なりやすく、単年のキャッシュフローが赤字に転落することも想定内に入れておく必要があります。
余談になりますが、筆者自身も1棟目で修繕費の見積もりを甘く読み、2年目に手残りがほぼゼロになった経験があります。「修繕積立は保守的すぎるくらいでちょうどいい」と実感したのはその後のことでした。
「同じアパートで規模拡大」か「別アセットで分散」か——数字が示すヒント
同じアパート路線で拡大する場合、融資余力と既存物件の収支実績が連動します。すでに1棟を保有していると、次の融資審査では「既存物件の収支」が参照されます。実質利回りが低い物件を抱えていると、借入枠が想定より出ないケースもあります。拡大を狙うなら、現保有物件の収支を「他行から見た場合」で再評価しておくことが先決です。
一方、別アセットによる分散は、アパート特有のリスク——空室率上昇・修繕の集中・出口での買い手限定——をヘッジする観点で検討価値があります。たとえばトレーラーハウス投資のような小規模・移設可能な仕組みでは、立地を変えられる柔軟性が出口戦略の選択肢を広げることがあります。PACOのモデルでは木造2×4構造でAirbnb等を活用した宿泊運用を組み合わせるケースもあり、アパートとは異なる収益構造を持ちます。ただしリスクの種類が変わるだけで、リスクがゼロになるわけではありません。
「いざとなれば撤退できる」という選択肢は、なぜ資産価値になるのか
アパートの出口を考えるとき、「誰が買い手になるか」は必ず確認しておきたい変数です。地方の中古木造アパートは、築年数が進むほど買い手が投資家限定になり、融資がつきにくくなると売却価格が大きく下がることがあります。表面利回り8%で取得した物件を、10年後に同じ条件で売れるとは限りません。
資産を分散するときに「いざとなれば移動・撤退できるか」という視点を加えると、次の一手が整理しやすくなります。アパートは土地建物が固定されていて撤退コストが高い構造です。それを理解した上で拡大するのと、漠然と積み上げていくのとでは、5年後に取れる選択肢の数がかなり変わってくるはずです。
3棟目を動かす前に、まず「現在地の一枚の表」を作る
「3棟目をどうするか」を考える前に、既存2戸と1棟の実質利回り・ローン残債・修繕タイミングを一枚の表にまとめることをお勧めします。数字が並ぶと、拡大余力があるのか、むしろポートフォリオの整理が先なのかが見えてきます。筆者自身も投資を始めた頃、「動ける感覚」だけで判断して試算が甘かった場面が何度もありました。判断の質は、整理された現状認識から来ます。次の動きが確信を持てるものになるよう、焦らず数字を確かめてください。
よくある質問
実質利回りを計算するとき、修繕費はどう見積もればいいですか?
保守的に見るなら「年間賃料収入の10〜15%程度」を積んでおくケースが多いです。ただし築年数・構造・管理状況によって大きく変わります。購入前にリフォーム履歴・設備の経年状況を確認し、大規模修繕の時期を想定した上で、単年ではなく5〜10年のキャッシュフローで評価することをお勧めします。物件ごとに専門家と確認するのが現実的です。
融資を使う場合、キャッシュオンキャッシュリターンと実質利回り、どちらを優先すべきですか?
目的によって異なります。物件自体の収益力を評価するなら実質利回り、自己資金の効率を見るならキャッシュオンキャッシュリターンが参考になります。ただし後者は金利水準・融資比率に依存するため、金利が上昇した局面では数字が大きく変動します。どちらか一方ではなく、両方を並べて確認するのが現実的な判断に近づく方法です。
トレーラーハウス投資はアパートと比べて何が違いますか?
アパートと大きく異なる点は「移設可能性」「減価償却の仕組み」「運用モデルの多様性」の3点です。PACOのトレーラーハウスは木造2×4構造で、宿泊事業(Airbnb等)との組み合わせも行われています。初期投資は仕様・サイズ・立地・付帯工事によって変動し、1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多いですが、あくまでモデルケースであり個別の確認が必要です。アパートとリスクの種類が異なるだけで、リスクがゼロになるわけではない点はご留意ください。