区分マンション2戸、アパート1棟。次の一手を考えるフェーズに入ると、「同じアセットを積み上げるだけでいいのか」という問いが頭をよぎることがあります。先日、まさにそういう状況の38歳のサラリーマン投資家・Kさん(年収約800万円、以下モデルケース)からご相談をいただきました。数字への感度が高い方だったので、私も普段より丁寧に試算を整理することになりました。
「利回り15%って書いてあるけど、それ信じていいんですか」
Kさんは既存物件のキャッシュフローが安定している一方、「融資枠をこれ以上アパートに使い続けていいのか」という感覚を持っていました。民泊投資の広告を見て気になったものの、「想定利回り15%」という数字が腑に落ちなかった、と。
その感覚は正しいと思います。民泊投資の利回り表記は、計算の前提がばらばらなことが多い。稼働率をどこに置くか、清掃費や手数料をコストに含めているか、減価償却の扱いをどう考えるか——同じ「15%」でも、前提次第でまったく別の話になります。私自身、初めてこの領域を調べたとき、複数の事業者資料を並べて「なぜ同じ物件規模でここまで数字が違うのか」と混乱した経験があります。答えはシンプルで、稼働率の置き方が55%のものと75%のものが混在していました。
試算を一緒に分解したら、見えてきた「2層構造」
Kさんのケースで試算を整理してみました。あくまでモデルケースであり、個人の状況によって大きく異なります。前提条件は以下の通りです。
初期投資1,200万円(木造2×4構造のトレーラーハウス、付帯工事含む)、稼働率65%、宿泊単価1.5万円、運営委託手数料20%、清掃費・消耗品を月6万円。この条件での年間売上は約350万円。委託手数料・清掃費・固定費を差し引いた営業利益は概ね210〜230万円のレンジで、表面利回りに換算すると17〜19%ほどになります。ただし、これは「税引き前・減価償却前」の数字です。ここから先が、Kさんが本当に知りたかった部分でした。
減価償却が「2つ目の収益」として機能する可能性がある理由
トレーラーハウスは構造上、動産として扱われるケースがあります(税務上の取り扱いは個別に税理士へご確認ください)。法定耐用年数が短くなることで年間の減価償却費が大きくなり、Kさんのような年収800万円の給与所得者にとっては、この所得圧縮効果が純粋なキャッシュフロー以上に響くことがあります。
現金は出ていかないのに帳簿上は損失が出る、という構造です。既存の給与所得と損益通算できる可能性があるため、手取りが改善されるケースがある——ただし適用条件や効果は個人の税務状況によって異なります。「そういう仕組みがある」という理解にとどめておき、具体的な効果の試算は必ず税理士と確認してください。
「出口」はどこに設定するのか——Kさんが一番悩んだ部分
数字に厳しい方ほど、出口戦略を最初に聞いてきます。Kさんも「売れない物件を持ち続けるリスクが怖い」と言っていました。
固定基礎を持たない構造のため、撤去・移設という選択肢が存在します。立地が合わなければ動かせる、という発想は、固定資産としての不動産とは異なる出口の考え方です。ただし移設コストや再設置の手間はかかりますし、売却市場が成熟しているとは言えないのが現状です。「撤退しやすい」は「損をしない」と同義ではない——この点はKさんにも率直にお伝えしました。
Kさんが最終的に「もう少し調べてみる」と言った理由
私はKさんに「やったほうがいい」とは言いませんでした。ただ、「民泊投資の利回りを語るとき、営業キャッシュフローと節税効果は分けて考えないと正しく評価できない」という整理だけはお伝えしました。Airbnbの評価4.8以上を維持している運用事例がある一方、稼働率が想定を下回るリスクも現実にあります。
Kさんが「もう少し調べてみる」と言ったのは、「分からないから」ではなく「構造が見えてきたから」だと思っています。次に何を確認すべきかが分かる状態になった——それで十分だと、私は考えています。
次の小さな一歩として
まず手元でやってみてほしいのは、「稼働率を55%・65%・75%の3パターンで試算する」ことです。利回りがどう変わるかを自分で計算すると、どこが感度の高い変数なのかが体感できます。初期投資の幅(物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により、概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く、仕様や立地によって変動します)も含めて、最悪シナリオでも許容できるかどうかを先に確認しておくのが、既存投資家らしいアプローチだと思います。
よくある質問
民泊投資の利回りは、アパート投資と比べて高いのですか?
想定利回りだけを比べると民泊のほうが高く表記されるケースがありますが、稼働率・清掃費・プラットフォーム手数料などの変動コストが多く、実質的な手取りは前提条件によって大きく変わります。アパートと民泊は「収益の安定性」と「上振れ余地」のトレードオフとして捉えるほうが実態に近い、というのが私の見方です。
節税効果はどの程度見込めますか?
減価償却を活用した所得圧縮効果が想定されますが、その規模は個人の年収・既存の所得・物件の取得価額・耐用年数の設定によって異なります。情報収集の段階では「そういう仕組みがある」という理解にとどめておき、具体的な試算は担当税理士に個別相談されることをおすすめします。
トレーラーハウスの「移設できる」という特性は、出口戦略として有効ですか?
移設という選択肢があること自体は、固定資産にはないフレキシビリティです。ただし移設には一定のコストと手間がかかり、再設置先の確保も必要です。「撤退しやすい=損失ゼロ」ではなく、「損切りラインを選べる可能性がある」という捉え方が現実的です。出口の一オプションとして織り込んでおく程度の位置づけが適切だと思います。