「不動産は未経験だけど、そろそろ動かないと」と思いながら、具体的に一歩が踏み出せていない——45歳前後の経営者の方から、こういった相談を受けることが増えています。株式も投資信託もすでに持っている。それでも税と資産の「出口」を考えたとき、どの選択肢が自分に合っているのか、誰も正直に並べて見せてくれない。今回は中古アパート投資を軸に、他の選択肢と比較しながら整理します。
なお、筆者自身も数年前に「利回りが高いから」という理由だけで築古物件を検討し、実質利回りを試算した段階で想定より3ポイント近く下がることに気づいて立ち止まった経験があります。「表面の数字で判断しかけた」という失敗談として、後述の収益性の項目でも触れます。
「税金を減らしたい」なら、すべての選択肢が同じ土俵に立てるわけではない
年収1,800万円の経営者の方が最も重くのしかかるのは、所得税と住民税の合算税率が50%近くに達する点です。株式や投資信託の売却益は分離課税(約20%)で完結するため、課税所得そのものを圧縮する手段にはなりません。REITの分配金も受け取れますが、課税所得を下げる効果は限定的です。定期預金や現金保有は、税対策としての機能をほぼ持ちません。
中古アパートは、建物部分の減価償却を損益通算に使えるケースがあります。たとえば築古の木造アパートは法定耐用年数を超えていることが多く、償却期間が短い分、初期に大きな帳簿上の損失を計上できる場合があります。ただし効果の大きさは物件構造・築年数・購入価格の内訳によって変わりますし、事前に顧問税理士と個別にシミュレーションすることは必須です。「減価償却で節税できると聞いた」という段階で動き始めると、想定と実態がずれるリスクがあります。
流動性と管理コストを直視しないと、スピード感を求める経営者ほど後悔する
株式・REITの最大の強みは流動性です。翌営業日には現金化できる。本業で急な資金需要が生じたときに「動かせる資産」として機能します。一方で価格変動リスクは日々存在し、市場環境に大きく左右されます。
中古アパートは流動性が低く、売却に3〜6ヶ月以上かかることも珍しくありません。入居者管理・修繕対応・空室リスクといった実務コストも伴います。管理会社に委託すれば手離れはよくなりますが、「完全放置」はできません。相談を受けた50代の経営者の事例(モデルケース)では、管理会社への委託費用が家賃収入の5〜8%程度かかることを把握していなかったために、当初の収支計画が崩れたというケースがありました。スピード感を求める経営者ほど、「管理の重さ」を事前に数字で確認しておくことが重要です。
「利回り8%」の物件が、手元に残る時点で4〜5%台になる理由
現時点の定期預金金利は年0.2〜1%前後(2025年時点の目安)。REITの分配金利回りは銘柄によって3〜5%程度が多く見られます。株式は企業業績次第で大きく振れます。
中古アパートの表面利回りは、立地・築年数・購入価格によって6〜10%超まで幅があります。ただし実質利回り(管理費・固定資産税・修繕費を差し引いた後)は、表面利回りから2〜4ポイント下がることが一般的です。モデルケースとして、購入価格1,200万円・表面利回り8%の物件を想定した場合、年間家賃収入は約96万円。そこから管理委託費・固定資産税・修繕積立を差し引くと、手残りは年60〜70万円台になるケースが想定されます。「利回り8%」という数字だけで判断しかけたのが、冒頭で触れた筆者自身の反省点でもあります。あくまで試算ベースであり、個別物件の条件によって異なります。
「中古アパートが向いている人・向いていない人」を正直に言うと
向いているケース
・減価償却による所得圧縮を優先したい(かつ顧問税理士と事前に試算済み)
・5〜10年以上の中長期で資産を持ち続けられる
・管理委託コスト(家賃収入の5〜8%程度)を織り込んだ上でキャッシュフローを確保したい
・個人資産に「不動産」を加えてポートフォリオの分散を図りたい
向いていないケース
・短期で現金化する可能性が高い
・修繕リスクや空室リスクを心理的に受け入れにくい
・融資を使わない現金投資で、節税よりも純粋な利回りを求めている
・本業への影響が出るような管理負担を抱えたくない
「中古アパートは万能ではない」というのが正直なところです。それでも適切な条件と立地が揃えば、他の資産クラスでは得にくい税務上の効果とキャッシュフローの両立が見込めるケースがあります。
比較検討を終えたら、次の一歩は「税理士へのシミュレーション依頼」から
「どの選択肢が自分の税務状況・資産構成・リスク許容度に合っているか」は、個別の数字を並べてみないと見えてきません。まず顧問税理士に「不動産取得した場合の損益通算シミュレーション」を依頼することが、最も無駄のない一歩として考えられます。その上で物件や不動産会社を絞っていく順序のほうが、後悔は少ないです。
なお、PACO INVESTでは木造2×4構造のトレーラーハウスを活用した投資モデルも取り扱っており、中古アパートとは異なるアプローチで節税・収益化を検討されるケースもあります。1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く見られますが、物件仕様や立地によって変動します(モデルケース)。比較検討の選択肢のひとつとして参照してみてください。
よくある質問
中古アパートの減価償却による節税効果は、法人と個人どちらが有利ですか?
個人の総合課税所得が高い場合(税率33〜45%)は、個人名義での減価償却損益通算が効果的とされるケースがあります。法人で取得すれば法人税との相殺も検討できます。どちらが有利かは保有資産の全体構成・法人の課税状況によって異なりますので、顧問税理士と個別に試算することをお勧めします。「どちらが得か」という問いへの答えは、数字を並べるまで出ません。
中古アパートとREITを「両方持つ」のはアリですか?
流動性の高いREITと流動性が低い現物不動産を組み合わせる考え方は、ポートフォリオ分散の観点では理にかなっているとされることがあります。ただしREITは不動産市況との相関が高く、「現物不動産との分散」としての効果は限定的という見方もあります。「不動産系資産に偏りすぎていないか」という視点で全体バランスを確認することが先決です。
中古アパートを買うなら、融資はどのくらい使うのが現実的ですか?
金融機関の融資条件は、法人・個人の属性・物件の担保評価・築年数によって大きく異なります。築古の中古アパートは担保評価が低く出ることが多く、フルローンは難しいケースが多いです。自己資金20〜30%を確保した上で融資を活用する形が、現実的なスタートラインとして語られることが多いですが、あくまで一般論です。金融機関や物件条件によって条件は変わりますので、複数の金融機関に打診してみることをお勧めします。