「株も投信もある程度持っているんですが、どうも一点集中な気がして」——先日、こんな相談を受けました。年収が高いほど税負担も重くなり、資産をどう分散させるかは切実な問題です。中古アパート投資はそのひとつの選択肢として語られることが多いのですが、実際に動いた方の話を聞くと、入口と出口でかなり印象が変わることがあります。私自身、以前に別の案件で「表面利回りだけ見て試算を組んでしまった」という苦い経験があるので、今回はその反省も踏まえてお伝えします。
「減価償却が取れると聞いて買った」——Kさんが3年後に直面した数字
ご相談者の事例(モデルケース)としてお話しします。知人の紹介でお会いしたKさんは、製造業を営む46歳の経営者。年商は約1.8億円、個人の所得税と住民税の合算税率がすでに50%近い水準に達していました。「不動産で減価償却を取れると聞いた」という理由で、地方都市の築28年・木造8室のアパートを購入されたのが3年前の話です。
購入価格は約3,500万円(前提:地方政令市郊外、表面利回り8.2%のモデルケース)。減価償却費は年間約200万円が計上でき、当初は所得圧縮効果が見込まれました。ところが2年目に1室、3年目にさらに2室が空き始め、修繕費と原状回復費が重なります。3年目の収支を整理すると、減価償却200万円の帳簿上の恩恵があった一方、修繕・空室損失の合計が150万円超に達していました。「節税できていると思っていたら、現金が実は出ていっていた」——これがKさんの言葉です。
減価償却は「帳簿の話」であって「現金の話」ではない
減価償却を活用した所得圧縮は、高所得の経営者にとって有効な手段のひとつです。ただし、これは「帳簿上の損失」と「現金の流れ」が連動しないことを意味します。帳簿では黒字でも手元のキャッシュは減り続ける、という逆転現象がKさんのケースで起きていました。
さらに注意が必要なのは耐用年数の問題です。木造アパートの法定耐用年数は22年。築28年の物件であれば残存耐用年数はゼロに近く、融資期間が短く設定されるケースが多い傾向があります(金融機関・物件評価・申込者属性によって異なります)。減価償却の残年数も短いため、節税効果が早期に逓減するのも中古物件特有の構造です。
「出口まで試算したか」——表面利回り8%が意味しないこと
スピードと確実性を重視する経営者ほど、入口の数字だけを見て動いてしまうことがあります。Kさんも「利回り8%という数字を信じた」とおっしゃっていました。ただ、表面利回りは満室を前提にした数字です。実質利回りに直すには、空室率・管理費・修繕費・固定資産税・保険料を差し引く必要があります。空室率10%を織り込むだけで利回りは1ポイント近く下がるケースもあります(物件・立地により異なります)。
また、出口として「売却」を想定したとき、築28年の木造は買い手の融資が付きにくいという現実があります。売却価格が下がりやすく、減価償却の恩恵を享受した後に譲渡損が生じるケースも想定されます。「いつでも売れる」という前提は、中古木造アパートでは慎重に扱う必要があるでしょう。
Kさんが次に比較し始めた選択肢——「出口の重さ」が違う可能性
現在Kさんは、追加の不動産投資として複数の選択肢を検討中です。そのひとつとして話題に上ったのが、木造2×4構造を採用したトレーラーハウスを活用した投資スキームでした。初期投資は1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(モデルケース)、物件仕様・サイズ・立地・付帯工事によって上下します。構造上、一定条件下で「動産」として扱われることがあり、融資・税務・出口の設計がアパートとは異なる可能性があります。
「これが正解」というわけではありません。Kさん自身、まだ比較検討の途中です。ただ「アパートで感じた出口の重さがない可能性がある」という点を、税理士と一緒に確認し始めているとおっしゃっていました。選択肢を並べて比べること自体、経営者としての判断プロセスとして自然だと思います。
動く前に「3パターン試算」を手元に置いておく
中古アパートを選択肢に残すなら、最初の一歩として「満室・空室率10%・空室率20%」の3パターンで実質キャッシュフローを試算することをお勧めします。修繕積立と融資返済を引いた後の「手元に残る現金」が、合算税率50%近い水準の方の所得圧縮とどう噛み合うかを確認することが重要です。税理士・ファイナンシャルプランナー・不動産専門家の三者が揃った場で数字を並べると、判断の精度が上がります。
Kさんのような経験は「失敗」というより「前提を検証しなかった入口」の問題だったと見ています。情報を揃えてから動くスタイルは、経営者であれば十分に実践できるはずです。
よくある質問
中古アパートの減価償却は、高所得の経営者の節税に本当に効きますか?
所得圧縮効果が想定されるケースはありますが、築年数によって残年数が短く、効果が早期に逓減する場合があります。また、減価償却は「帳簿上の経費」であり現金の流出とは連動しません。修繕費・空室損失が重なると、帳簿と手元キャッシュの乖離が生じることもあります。税理士との綿密な試算が前提となります(個人の状況によって効果は異なります)。
築古物件は融資期間が短くなりやすいのはなぜですか?
木造建物の法定耐用年数は22年で、中古物件は残存耐用年数がすでに短い状態です。金融機関が残存耐用年数を融資期間の上限の目安とするケースがあり、築古物件ほど返済期間が短く設定されやすい傾向があります。ただし、金融機関・物件評価・申込者の属性によって条件は大きく異なります。
トレーラーハウス投資は中古アパートと何が違うのですか?
構造・法的分類・用途の自由度・出口の設計など、複数の点でアパートとは異なる可能性があります。ただし「どちらが優れている」とは一概には言えません。立地・資金規模・税務状況・運用スタイルによって適性は変わります。PACOでは木造2×4構造のトレーラーハウスを扱っており、詳細はお問い合わせいただくことで個別の状況に応じた情報提供が可能です(投資の成果を保証するものではありません)。