法人税対策の話が出るたびに、アパート経営の名前が挙がります。減価償却の仕組みは使い方次第で効きますが、「節税になる」という言葉だけを追いかけて動くと、5年後に手元資金が想定より薄くなっていたというケースは珍しくありません。今回は前提条件を明示したモデルケースを一本、丁寧に解剖してみます。
提案資料に「修繕積立・空室損失・元本返済」の3行が薄くないか
アパート投資の提案資料には、「家賃収入○○万円、減価償却○○万円、所得圧縮○○万円」という構成が多く見られます。しかしそこに「修繕積立」「空室損失」「ローン元本返済」の3行が薄いことがあります。この3行を埋めると、見え方がかなり変わります。
特に元本返済は損益計算書に出てきません。キャッシュは出ていくのに税務上の経費にはならない。つまり「帳簿上は黒字なのに現金が減っている」状態が起きやすい構造です。経営者の方であれば、法人の資金繰りと同じ感覚で見ていただくと理解が早いと思います。
税引き後キャッシュを月額まで分解すると、何が見えるか(モデルケース)
以下はあくまでモデルケースです。実際の数字は物件・エリア・融資条件・個人の税率によって大きく異なります。参考値として読んでください。
前提条件
・木造アパート新築、8室、1K(25㎡)
・建物取得費:8,000万円(土地別途・自己所有想定)
・表面利回り:7.5%(満室時)
・月間家賃収入:50万円(月6.25万円×8室)
・融資:6,500万円、金利1.8%、35年返済
・実効空室率:10%(年間ベース)
・年間修繕費・管理費:家賃収入の15%
年間収支の内訳
・年間家賃収入(満室):600万円
・実効収入(空室10%控除後):540万円
・管理費・修繕積立(15%):▲81万円
・ローン返済(元利合計・概算):▲244万円
うち利息分(経費算入可・初年度概算):▲117万円
うち元本分(経費算入不可):▲127万円
・税引き前手残り(CF):約215万円
・減価償却(木造22年・概算):約364万円
・課税所得への影響(利息+減価償却):実効収入540万円-利息117万円-減価償却364万円=約59万円が課税所得に加算
減価償却364万円はキャッシュアウトを伴わない経費なので、税務上の所得は大きく圧縮されます。年収1,800万円の経営者が実効税率55%前後の課税ラインにいる場合、この圧縮効果は無視できません(364万円×55%≒200万円前後が「払わずに済む税負担」に相当するモデルケースの試算です)。一方で、元本返済127万円はキャッシュとして確実に出ていきます。節税効果とキャッシュが消えるスピードの両方を並べて確認することが、この構造では欠かせません。
減価償却が終わった後のシナリオを最初から持っておく
木造アパートの場合、22年で減価償却がゼロになります。それ以降は家賃収入がそのまま課税対象になりやすくなるため、課税所得が跳ね上がる局面が想定されます。売却のタイミングと出口価格の前提を、購入前の段階から試算に組み込んでおくことが、この構造では特に重要です。
地方立地で「数字が合う」ように見えるとき、空室率の根拠を確かめたか
都市部より地価が低い地方でアパートを建てると、同じ建築費でも表面利回りが高く出やすい傾向があります。ただし「高利回り=良い投資」とは限りません。以前、筆者が地方物件の試算を組んだ際に空室率を都市部並みの5%で置いてしまい、後から10〜15%に修正したところ実効収入が年間30万円以上ずれた、という経験があります。前提一つで結論が変わる典型例でした。
地方立地を見るときに重視したいのは、①5〜10年後の人口動態、②競合物件の稼働状況(管理会社への直接確認が有効)、③出口時の買い手の有無です。利回りの数字を見る前に、その前提を支えているものが何かを確認する順番が先決だと思っています。
アパート以外の選択肢を「スケール感」で並べてみると
不動産未経験の方にとって、アパート1棟への投資は規模感が大きく、意思決定に時間がかかります。小さい単位から不動産の運用感覚をつかみたいという方には、初期投資のレンジが相対的に抑えやすい形式も検討肢に入ります。例えばPACOが手がけるトレーラーハウス型の投資は、1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(物件仕様・立地・付帯工事により上下するモデルケースの目安です)、撤去・移設の柔軟性がある点でアパートとは別の意思決定軸になります。あくまで「選択肢の一つ」として情報として持っておく程度で構いません。
試算書を読む前に、自分の「非流動性の許容量」を確かめる
アパート経営の検討を始めるなら、最初にすることは「良い物件を探す」ではなく「手元に置きたいキャッシュと、容認できる流動性の低さを確認する」だと思います。株や投資信託と違い、不動産はすぐに換金できません。その非流動性を許容できる資産比率を確かめてから試算書を読む順番が、結果的に遠回りしないコツです。気になる方は、まず手元の試算書の「元本返済額」「空室率の根拠」「出口価格の前提」の3行を確認することから始めてみてください。
よくある質問
減価償却による節税効果は、何年続くのでしょうか?
木造アパートの法定耐用年数は22年です。建物部分の取得費を耐用年数で割った額が毎年経費計上でき、その間は課税所得の圧縮効果が見込まれます。22年経過後は減価償却がゼロになるため、それ以降は家賃収入がそのまま課税対象になりやすくなります。売却時期の検討は、この耐用年数を意識しながら早い段階から考えておくことが一般的です。具体的な節税効果は個人の税率・保有構造によって異なりますので、税理士への確認をお勧めします。
年収1,800万円の経営者がアパート投資をする場合、個人名義と法人名義、どちらが有利ですか?
一概にどちらが有利とは言えず、個人の給与所得・法人の利益水準・将来の相続対策の有無によって判断が変わります。法人名義では減価償却の柔軟な活用が難しい場面もある一方、個人名義では他の所得と合算されて累進課税の影響を受けるケースがあります。保有構造ごとのシミュレーションを税理士と比較しながら検討することをお勧めします。
アパート経営とトレーラーハウス投資は、何が一番違いますか?
最も大きな違いは「固定性」と「スケール」です。アパートは土地・建物に紐づく不動産であり、一度建てると物理的な移動は困難で、初期投資規模も大きくなります。トレーラーハウスは移設・撤去の柔軟性が異なり(法的分類・条件による)、初期投資規模も相対的に小さいケースが想定されます。どちらが優れているかではなく、自分のポートフォリオ内で「流動性の低い資産にどれだけ振り向けるか」という文脈で比較するのが実用的だと思います。