アパート経営で複数物件を持ちながら、次の一手を模索している方からの相談が増えています。先日、区分マンション2戸+アパート1棟を保有する38歳の会社員Kさん(年収800万円)から「3棟目に動くべきか、それとも別の選択肢を見るべきか」という連絡をいただきました。以下はKさんの了承を得て再構成したモデルケースです。相談を受けながら、私自身も「拡大を急かしすぎていなかったか」と少し反省した部分があったので、その話も含めて整理してみます。
「8.2%」という数字が、話し合うほど縮んでいった
Kさんが検討していたのは、地方政令都市の築15年・木造アパートで、表面利回りは8.2%。一見バランスの良い数字です。ただ、管理費・修繕積立・空室損(稼働率90%想定)・固定資産税を差し引いた実質利回りを試算すると5%台まで落ちました。そこに融資コストを乗せると、手元に残るキャッシュフローは月3〜4万円という計算になります(モデルケース、金利1.8%・35年・フルローン想定)。
「これ、3棟目として成立するのかな」とKさん自身が首をかしげていたのは、正直な感覚だったと思います。表面8%が実質5%台になるケースは珍しくなく、そこから融資コストを引くと「頑張って3%」ということも起こりえます。数字に慣れているKさんでも、改めて並べてみると「見ていたのは表面だけだった」とおっしゃっていました。私も最初の打ち合わせで実質利回りの試算を後回しにしてしまい、2回目でようやく全体像が見えたという反省があります。
3棟目の融資審査は、2棟目のときと別物だと思っておいたほうがいい
Kさんが見落としていたもう一点が、融資条件の変化です。区分マンション2戸+アパート1棟を既に保有している状態では、金融機関の評価が変わることがあります。既存ローンの残債が収益性評価に影響し、同じ銀行でも出てくる条件が別物になるケースは実際に複数の相談者から聞いています。
Kさんのケースでは年収800万円・既存ローン残あり・追加物件の担保評価次第、という条件が重なっています。融資金利が0.3〜0.5%変わるだけで、月々のキャッシュフローは数万円単位で動きます(モデルケース:借入3,000万円・35年の場合、金利0.5%差で月約7,000円前後の差異が生じる想定)。3棟目に踏み出す前に、メインバンク以外の金融機関にも事前打診しておくことをお勧めしました。融資条件の確認は「審査が通ってから」ではなく「動く前」の作業です。
「アパートだけで固めていくことへの不安」は、無視していい感覚ではない
話の途中でKさんが「実は、アパートだけで固めていくことへの漠然とした不安もある」とこぼしました。アパート経営は土地・建物という固定資産がベースなので、特定エリアの需給変動・人口動態・建物の老朽化リスクが連動して押し寄せます。同じ構造で積み上げるのはリターン最大化の観点では合理的ですが、リスクの集中という観点では別の話です。
Kさんが「別のアセット」として関心を持っていたのが、トレーラーハウスを使った宿泊投資でした。PACO INVESTのような木造2×4構造の商品は移設可能という特性があり、出口戦略の柔軟性という点でアパートとは異なる性格を持ちます。導入コストは1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多い想定ですが、物件仕様・サイズ・立地・付帯工事によって上下します。Kさんが「撤退できる選択肢が手元にあること自体が、精神的なバッファになる」とおっしゃっていたのは、ポートフォリオの組み方として理にかなった発想だと感じました。
「拡大しない」という選択肢を、もっと真剣に検討していいはずです
最終的にKさんとの相談でたどり着いたのは、「3棟目を今年中に動かす必要は、実はないかもしれない」という結論でした。既存の2棟の管理会社を見直し、軽微なリノベで賃料を月5,000円引き上げ、空室対策を一手打つだけで、キャッシュフローが月3〜5万円改善するモデルケースが想定されます。新しいローンを背負うリスクを取らずに得られる成果として、まず試す価値があります。
拡大の衝動は「もっと持てばもっと安心」という感覚から来ることがありますが、安心の根拠が「物件数」ではなく「月次のキャッシュ」にある人ほど、一度立ち止まることで視界が開けるケースがあります。
次に踏み出すなら、まず"今持っているものの実力"を紙一枚に並べてみてください
表面利回り・実質利回り・手取りキャッシュ・融資条件・出口の読み方——これらを一枚の紙に並べたとき、初めて「動くべきか、待つべきか」の判断材料が揃います。3棟目への不安を持ちながら相談に来たKさんが「まず今の数字を見直す」という一歩を選んだことは、間違いではなかったと思っています。もし似たような状況で悩んでいるなら、まず手持ち物件の実質利回りと月次キャッシュを計算し直してみてください。それだけで、次の選択肢が思っていたより明確に見えてくることがあります。
よくある質問
アパートの表面利回りと実質利回りは、どのくらい差が出るものですか?
管理費・修繕費・固定資産税・空室損などを差し引くと、表面利回りから2〜3%程度低下するケースは珍しくありません(あくまでモデルケースの参考値)。物件の築年数・立地・管理状況によって個人差があるため、購入前に諸経費を具体的に積み上げた実質利回りの試算を行うことをお勧めします。
既に複数棟を持っている場合、追加融資の審査は厳しくなりますか?
保有物件数・既存ローン残債・属性(年収・勤務先)・追加物件の担保評価など複数の要素が組み合わさって審査されます。同じ金融機関でも2棟目と3棟目で条件が変わることがあり、事前に複数の金融機関に打診しておくことが有効なケースがあります。融資条件の読み方は個別性が高いため、早めに担当者と対話しておくことをお勧めします。
アパート以外のアセットへの分散を考えるとき、何を基準にすればいいですか?
主な確認ポイントは「出口の柔軟性(売却・撤退のしやすさ)」「キャッシュフローの安定性」「既存ポートフォリオとのリスク相関」の3点です。アパートと相関の低いアセット(例:宿泊型投資や別の収益構造を持つ物件)を加えることで、特定エリア・特定用途への集中を緩和できる場合があります。ただしいずれのアセットも、想定利回りはモデルケースであり、実際の運用結果は条件により異なります。