老後2,000万円問題が話題になって以来、iDeCoやNISAを始めた方は増えました。ただ、「もう一段踏み込みたい」と感じたとき、次に何を選ぶかで10年後の手残りはかなり変わります。先日、32歳・会社員・年収550万円のTさん(モデルケース)からアパート経営について相談を受けました。そのやり取りを整理してお伝えします。なお、私自身も最初の相談でうっかり「節税効果は誰でも同じ水準で出る」と早合点しかけた経験があります。数字を並べてみて初めて「前提次第でこんなに変わるのか」と気づいた、というのが正直なところです。
「節税になると聞いた」——その一言が、実は一番危ない入口だった
Tさんが最初に口にしたのは「不動産は節税になると聞いて」という言葉でした。確かに、不動産投資では減価償却を活用した所得圧縮効果が生じるケースがあります。年収550万円の場合、所得税率は20%前後が目安で、帳簿上の赤字を給与所得と損益通算することで、一定の節税効果が生じる可能性はあります。ただし、その効果は物件の構造・築年数・取得価格の配分によって大きく変わります。
Tさんのケースで試算してみると(前提:木造築20年・取得価格2,000万円・土地建物比率5:5)、減価償却費として年間100万円前後が計上できる可能性があります。税率20%で計算すれば、節税額の目安は年20万円前後——ただしこれはあくまでモデルケースです。土地比率が高い物件では減価償却の対象が小さくなるため、同じ2,000万円でも効果は半分以下になることもあります。税理士への確認なしに動くのは危険だと、正直にお伝えしました。
「副収入」として計算できるのか——表面利回りと手残りの間にある現実
節税と同時にTさんが期待していたのが「副収入」でした。ただ、アパート経営の手残りは表面利回りよりずっと読みにくい構造になっています。管理費、修繕積立、空室リスク、固定資産税——これらを引いた実質利回りが、ようやく手元に残るお金の目安になります。
木造アパートの実質利回りは5〜6%台になるケースが多いとされています(立地・築年数・取得価格によって上下します)。取得価格2,000万円で実質5%なら、年間手残りの目安は100万円、月換算で約8万円です。融資を使っていれば返済後の手残りはさらに絞られます。たとえば金利2%・25年ローンで1,600万円借入した場合、月々の返済は約6万7,000円(モデルケース)。月8万円の手残りから引くと、実感できる「副収入」は月1万円台になることもあります。Tさんには「節税と手残り、どちらを主目的にするか最初に決めてほしい」とお話ししました。
住宅ローンを組む前に投資ローンの「枠」を使ってしまうと、何が起きるか
これが今回の相談でTさんが最も驚いていた話です。将来的に自宅購入も考えているTさんにとって、アパート投資で融資を引いてしまうと、金融機関からの信用枠が圧迫され、後から住宅ローンを組む際に不利になる可能性があります。「融資は先に使った方が有利」という話を聞いていたようですが、それは自宅購入を考えないケースや、借入総額をコントロールできている場面での話です。
ライフプランと投資計画は切り離せません。「今すぐアパートを買う」よりも「いつ何のために融資枠を使うか」を整理する方が先です。Tさんには、物件探しより先にファイナンシャルプランナーへの相談を済ませることをすすめました。
「アパートだけが選択肢じゃない」と伝えたとき、Tさんの表情が少し変わった
話の後半で、木造2×4構造のトレーラーハウス(PACO INVEST)の話をすると、Tさんは「そういう選択肢もあるんですね」と少し表情が変わりました。1台あたりの検討価格は概ね990万〜1,500万円のレンジになるケースが多く(物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により変動します)、Airbnb等での宿泊運用を組み合わせた収益モデルが一つの形として想定されます。
アパートとは異なり移設できる構造であること、宿泊需要の強いエリアに設置することで利回りの設計が変わる可能性があること——ただし、立地選定や運営体制によって結果は変わります。「こういう選択肢もある」という程度に頭の片隅に置いてもらえれば、とお伝えしました。
Tさんへの、そして今これを読んでいる方への提案——物件探しは「3番目」でいい
アパート経営は、仕組みを理解すれば節税と副収入の両方を狙える投資手法のひとつです。ただ、「節税になると聞いた」という入口から動き始めると、数字の読み間違いや融資枠の消費といった落とし穴にはまりやすい。Tさんに最後にお伝えしたのは「最初の一歩は、税理士への相談と融資の打診を並行して進めること」でした。物件探しはその後でも遅くないはずです。
よくある質問
年収550万円でもアパート経営の融資は通りますか?
年収550万円でも融資を受けられるケースはありますが、勤続年数・自己資金・既存の借入状況によって条件は大きく異なります。金融機関によって審査基準が異なるため、複数行への打診と、事前に自身の信用情報を確認しておくことをおすすめします。
節税目的でアパートを買うのは、最初の動機として問題ありますか?
節税を意識すること自体は問題ありませんが、節税効果は物件の構造・取得価格・築年数によって変わります。同じ2,000万円の物件でも、土地比率の違いだけで減価償却額が数十万円単位でずれるケースがあります。「節税になると聞いた」だけで動き始めると、想定外の結果になることもあります。減価償却の仕組みを税理士に確認した上で投資判断をされることをおすすめします。
将来、住宅ローンを組む予定があっても不動産投資はできますか?
不可能ではありませんが、投資用ローンと住宅ローンの双方が信用枠に影響する可能性があります。どちらを先に使うかは、ライフプラン全体で検討すべき問題です。特に30代前半で自宅購入も視野にある方は、ファイナンシャルプランナーへの相談を先に行うことを強くおすすめします。