「利回り8%のアパート、どう思いますか?」——こういう相談を受けるとき、まず「その8%は表面利回りですか?」と聞き返すようにしています。株式や投資信託を長年扱ってきた経営者の方でも、アパート経営の利回りは別の文法で読む必要があります。実はかつて筆者自身も、初めてアパートの資料を見たとき、表面利回りと実質利回りの差をなめていて、試算をやり直す羽目になりました。その経験から、数字の"読み順"だけは最初に整理しておきたいと思っています。
「利回り8%」に含まれていないコストを先に数えると何が残るか
表面利回りは「年間満室想定賃料÷物件価格」で算出されますが、管理費・修繕費・固定資産税・空室損失は一切含まれていません。これらを差し引いた実質利回りは、5〜6%台に落ち着くケースが多いとされています。
さらに融資を活用した場合、ローン返済後のキャッシュフロー利回りで見ると3〜4%台になることも想定されます。モデルケースとして「物件価格5,000万円・表面利回り8%・フルローン・金利2%・35年」で試算すると、年間手取りキャッシュフローは100〜150万円程度になるケースがあります。「8%」という入口の数字だけで判断するのは、かなり危険です。
節税目的で動くなら、利回りより「減価償却の設計年数」を先に確認する
法人税対策や個人の所得圧縮を目的に検討している場合、純粋な利回りよりも「減価償却をどう設計するか」が論点になります。木造アパートの法定耐用年数は22年。中古物件であれば残存耐用年数が短くなるぶん、年間の減価償却費を大きく計上できるケースがあります。
たとえば「築25年・木造・取得価格5,000万円・建物比率60%」というモデルケースで試算すると、建物部分3,000万円を残存4年(端数切捨て)で償却するため、年間750万円前後の損益通算が可能になる場合があります。ただし建物比率の按分や個別の税務状況によって数字は大きく変わるため、必ず税理士に試算してもらってください。減価償却が終わった後の税負担の跳ね返りまで含めてシミュレーションしておくことが重要です。
「利回り・立地・管理・出口」の4軸、どれを捨てるかで物件の方向性が真逆になる
意思決定のスピードを上げるには、判断基準の優先順位を先に決めておくことが有効です。アパート経営でいえば「利回り・立地・管理のしやすさ・出口の見えやすさ」の4軸のうち、どれを最重視するかで物件選びがまったく変わります。
「管理の手間を最小化したい」という40〜50代の経営者の相談を受けたモデルケースでは、築浅・駅徒歩5分以内・管理会社フル委託を前提にした結果、表面利回りは6〜7%程度に落ち着きました。手離れのよさとのトレードオフです。一方、「節税効果を最大化したい」なら中古木造を低価格帯で取得する方向性になり、この2つは物件の方向性がほぼ真逆です。どちらが正解かではなく、目的を先に言語化できているかどうかが分岐点になります。
株・投信と並べたとき、アパートの「流動性の低さ」は欠点ではなく性質だと理解する
株式・投資信託をすでに保有している方がアパートを検討する際に最初に腹落ちさせてほしいのが「流動性の差」です。株は翌営業日には現金化できますが、アパートは売却に3〜6ヶ月かかることも珍しくありません。これは欠点というより、そういう性質のアセットです。
その一方で、アパートは借入を使って取得できる点で株式とは異なる資産設計が可能です。自己資金を温存しながらレバレッジをかけた資産形成ができるケースもあります。ただし融資条件は金融機関・物件・属性によって大きく異なるため、「融資が使えること」を前提にしすぎるのは注意が必要です。
また、アパートとは異なるアセットとして、木造2×4構造のトレーラーハウスを活用した宿泊型投資(PACO INVESTのような形態)を選ぶ経営者の方も出てきています。初期投資は1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多く(物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により変動するモデルケースの目安)、アパートとは異なる収益構造を持つため、ポートフォリオの分散という観点から比較検討される方もいます。
「物件を探す」より先に、税理士と所得圧縮シミュレーションを走らせる
不動産投資の経験がない状態で動き始めるとき、最初にやるべきことは物件探しではなく「自分の優先順位の言語化」です。節税が目的なのか、キャッシュフローが目的なのか、相続対策なのか——目的によって見るべき数字がまったく変わります。
まず顧問税理士と「不動産を取得した場合の所得圧縮シミュレーション」を走らせてみてください。その試算結果を持って不動産業者や金融機関と話すと、会話の密度が変わります。情報収集の順番を間違えると、時間と判断力を余計に使います。
よくある質問
表面利回りと実質利回り、実際どのくらい差が出るものですか?
物件や立地によって異なりますが、管理費・修繕積立・固定資産税・空室率などを加味すると、表面利回りから1〜3ポイント程度下がるケースが多いとされています。表面利回り8%の物件でも実質5〜6%台になることがあり、融資を利用する場合は返済後のキャッシュフロー利回りでさらに3〜4%台になるケースも想定されます。複数の視点で数字を確認することをおすすめします。
節税目的でアパートを買う場合、どんな点を先に確認すればいいですか?
減価償却による所得圧縮効果は、構造・築年数・建物比率の按分次第で大きく変わります。特に中古木造は耐用年数が短い分、短期間に大きな減価償却費を計上できるケースがありますが、減価償却が終わった後の税負担の変化も含めて試算することが重要です。不動産に詳しい税理士を交えた個別シミュレーションが出発点になります。
アパート経営とトレーラーハウス投資は、どう使い分けを考えればいいですか?
アパートは長期・安定・居住用という性格が強く、減価償却設計と融資活用の幅が大きいのが特徴です。一方、トレーラーハウスを使った宿泊投資(PACO INVESTのような形態)はAirbnb等の短期貸し出しによる収益モデルで、アパートとは異なる収益構造を持ちます。どちらが合うかは、手間のかけ方・税務状況・リスク許容度によって変わります。「どちらかが正解」ではなく、自分の状況に合った組み合わせを検討するのが現実的です。