相続で遊休地を引き継いだとき、最初に頭に浮かぶのが「アパート経営」という方は多いです。固定資産税の重さ、土地を遊ばせている焦り——その感覚はよくわかります。ただ、仲介の現場に15年いた経験から正直に言うと、「建てれば解決」と動いて後悔した地主さんを、私は何人も見てきました。よく受けるご質問にお答えする形で、建てる前に確かめておきたいことを整理します。
「アパートを建てると相続税が下がる」——どのくらい、どんな条件で?
結論から言うと、「下がることがあります」が正確な答えです。更地のままだと固定資産税の軽減措置が使えず、相続税評価額も高止まりします。一方、アパートを建てて賃貸に供すると、土地は「貸家建付地」として評価が下がり、建物にも「借家権」控除が使えるケースがあります。
ただし、効果の大きさは立地・借地権割合・容積率によってかなり変わります。「必ず○%下がる」という断言は難しく、税理士に試算を依頼する前のステップとして「そういう仕組みがある」と理解しておく程度が適切です。節税効果だけを目当てに建てると、収益が出ない建物を長期間抱えることになりかねません。
郊外の土地でも入居者は集まるか——「入居率95%」の数字を疑う理由
これが一番正直に答えにくい質問です。私が現場で見てきた失敗のほとんどは、「需要の読み間違え」でした。都市部から電車で30〜40分圏内でも、駅徒歩15分超・競合物件が多い・人口減少エリアという条件が重なると、完成直後から空室に苦しむケースがあります。
以前、相談を受けた50代の地主の方(モデルケース)は、ハウスメーカーの提案書に記載された「入居率95%」を信じて8室のアパートを建てましたが、2年後の稼働率は75%前後で推移していました。あの数字は全国平均であって、その土地の数字ではなかったのです。
確認したいのは、①エリアの賃貸需要(地元の賃貸仲介会社に問い合わせると反響数の感覚がわかります)、②競合物件の築年数と家賃水準、③人口動態の3点です。これらは自分で調べられる情報で、調べるコストはゼロです。
建設費と家賃収入のバランス——「表面利回り7%」に隠れているもの
よく使われるのが「表面利回り」ですが、地主さんにはぜひ「実質利回り」で考える習慣をつけていただきたいと思っています。モデルケースで試算してみます。
木造アパート・8室・建設費8,000万円・月額家賃6万円×8室の想定で計算すると、表面利回りは(6万円×8室×12ヶ月)÷8,000万円=約7.2%です。ただし、管理費(家賃の5〜8%)、固定資産税、修繕積立、空室損(稼働率90%として計算)などを差し引くと、手残り利回りは4〜5%台になるケースが多いです。あくまでモデルケースであり、地域・仕様・空室率によって変動します。
「7%以上ないと意味がない」より、「4〜5%前後でも30年回り続けるか」という視点のほうが、土地を持つ地主さんには合っていると感じます。
アパート以外の選択肢——郊外の観光エリア近辺なら試す価値があるもの
相続対策と土地活用を同時に考えるとき、アパートだけが答えではありません。最近、私自身も運用に関わっているトレーラーハウス型の宿泊施設という選択肢が、検討対象として増えてきました。木造2×4構造で建てられた宿泊施設として使うモデルで、短期賃貸プラットフォームでの運用では評価4.8台の実績が出るケースもあります(運営者・立地・稼働率によって異なります)。
1台あたりの初期投資は概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多いですが、物件仕様・サイズ・立地・付帯工事の内容によって上下します。アパートと比べたときの特徴は「撤退のしやすさ」で、建物を移設・売却できる構造であることです。ただし、これが有利に働くのは主に郊外の観光エリア近辺に土地がある場合で、住宅需要の高い市街地では別の選択肢を検討する余地があります。
最初の一歩は「建てる相談」ではなく「今の数字を知ること」
いきなりハウスメーカーの営業に連絡するのは、少し待ってください。最初の一歩としてお勧めしているのは、①土地の登記・測量図を手元に揃える、②固定資産税の評価額と更地評価額を確認する、③相続専門の税理士に「現状の相続税額」だけを試算してもらう——この3つです。
「何かを建てる」前に「今の数字を正確に知る」ことが、後悔しない判断の土台になります。土地は逃げません。情報だけ先に揃えておくのが、地主さんにとって一番コストのかからない動き方だと思っています。
よくある質問
アパートを建てると固定資産税が安くなりますか?
住宅用地として認定されると、更地と比べて固定資産税が軽減されるケースがあります(小規模住宅用地は課税標準が1/6になる制度があります)。ただし、建設費のローン返済を含めたトータルの収支がプラスになるかどうかは別の話です。固定資産税の軽減だけを目的に建てると、収益の出ない建物を長期間抱えるリスクがあります。
土地を担保にして建設費を全額借りられますか?
相続した土地を担保にした融資は、金融機関によって対応が分かれます。土地の評価額・所有形態・申請者の属性(収入・年齢・既存借入)によって条件が大きく変わるため、複数の金融機関に打診することをお勧めします。なお、55歳以降の新規アパートローンは返済期間が短く設定されやすく、月々の返済額が重くなるケースがあります。事前に試算しておくことが重要です。
アパート経営とトレーラーハウス投資、どちらが相続対策に向いていますか?
一概には言えませんが、視点をひとつ提供すると——アパートは建物が「不動産」として評価されるため、相続税圧縮効果が出やすい反面、長期の管理責任が伴います。トレーラーハウスは構造によっては「動産」扱いになることがあり、相続税対策の効果はケースバイケースです。どちらが向いているかは土地の立地・家族構成・相続税の試算額によって変わりますので、税理士と不動産の専門家を交えてご判断ください。