区分マンション2戸、アパート1棟。ここまで積み上げてきた方が「次は中古アパートで規模を拡大したい」と考えるのは自然な流れです。ただ、数字に慣れた人ほど「表面利回り」に引っ張られて見落としが起きやすい。先日、40代のKさん(年収900万円超のサラリーマン投資家・モデルケース)から受けた相談が、まさにそのケースでした。
正直に言うと、私も最初にその物件の概要を聞いたとき「これは悪くないのでは」と思いました。後で試算を一緒に見て、自分の甘さを反省しました。
「利回り10.2%」の物件を、Kさんがすぐに買わなかった理由
持ち込まれた物件は「表面利回り10.2%、築18年・8室・地方都市郊外、物件価格3,500万円」というものでした。Kさんはその数字を見てすぐ飛びつかず、「実効ベースで何%になるか」を自分で試算し直しました。
満室時の年間家賃収入は360万円(表面利回りの前提)。地方郊外の平均的な入居率を80%と仮定すると、実質的な収入は年間288万円前後に下がります。そこから管理費(家賃収入の5%・約14万円)、固定資産税、火災保険料、修繕積立の概算を差し引くと、年間手取りは160〜180万円程度という試算になりました。
実質利回りに換算すると4.6〜5.1%。「10%」が半分近くに縮みます。地域・築年・入居率の前提次第で数字は変わりますが、Kさんが「表面と実質の乖離がここまで大きいとは思っていなかった」と言っていたのが印象的でした。
築18年という数字が、融資期間を直撃する
実質利回りの試算と並行して、Kさんが確認したのは「出口」でした。築18年の木造アパートは10年後に築28年。地方都市郊外で買い手がどれだけいるか、融資を引ける金融機関はどこか、売却時に残債を下回るリスクはないか——この3点の答えが揃わなかったそうです。
特に融資条件が想定外でした。地方銀行数行に打診したところ、複数から「築年数的に融資期間10年以内」という回答が返ってきました。木造の法定耐用年数は22年で、築18年であれば残耐用年数は4年。金融機関によっては残耐用年数を基準に融資期間を設定するため、返済期間が極端に短くなるケースがあります。返済期間が10年以内になれば月々の返済額は大きく増え、先ほどの実質利回り試算をさらに圧迫します。Kさんは「利回りの数字ほど旨味がない」と判断し、購入を見送りました。
Kさんが次に向かったのは「同じリスクを増やさない」という発想
Kさんが既に持っている木造アパートも、地方郊外で空室リスクと融資残期間の問題を抱えていました。そこへ同じ属性の物件をもう1棟加えることは「規模拡大」ではなく「同じリスクの増幅」になりかねない。この整理ができてから、Kさんの視野は別アセットへ広がりました。
検討先の一つとして、PACO INVESTが扱う木造2×4構造のトレーラーハウスについて情報提供しました。1台あたり概ね990万〜1,500万円のレンジで検討されるケースが多いですが、物件仕様・サイズ・立地・付帯工事により上下します(あくまでモデルケース)。Kさんが関心を持ったのは、「建物として扱われない場合がある=固定資産税の取り扱いが異なるケースがある」「土地を購入しないため出口の選択肢が広がる場合がある」という点でした。いずれも条件次第であり、すべてのケースに当てはまるわけではありません。
「規模拡大か分散か」より先に問うべきこと
「規模を拡大すべきか、別アセットで分散すべきか」という問いは、そのままでは答えが出にくい問いです。「今の自分のポートフォリオが抱えているリスクのどこを補いたいのか」に置き換えると、判断の軸が見えやすくなります。
Kさんの場合、既存物件の属性リスクを把握したうえで「同じリスクを重ねない」という結論に至りました。その判断の出発点は、既存物件の「実質利回り」「残融資期間」「10年後の出口想定」を一枚の紙に並べる作業でした。次の物件を探す前に、まずその作業をしてみてください。何を補うべきかが言語化できると、物件選びの軸がずっとクリアになります。
よくある質問
中古アパートと新築アパートでは、融資の受けやすさに差がありますか?
築年数が古いほど金融機関が設定する融資期間が短くなる傾向があります。木造の法定耐用年数は22年で、築18年であれば残耐用年数は4年。この残耐用年数を融資期間の上限とする金融機関では、融資期間が極端に短くなるケースがあります。ただし基準は金融機関によって異なるため、複数行へのヒアリングが有効です。個別の状況によって判断は変わります。
表面利回りと実質利回りの差は、どのくらいを見込めばよいですか?
地方郊外の中古アパートでは、管理費5%・空室率20%・修繕費や保険・固定資産税を加味すると、表面利回りから3〜5ポイント程度低下するケースが多く見られます(モデルケース)。新築・都市部・高稼働物件では差が縮まることもありますが、いずれも個別の試算が必要です。
既に複数物件を持っている場合、次の融資審査は厳しくなりますか?
保有物件数や残債の総額が増えるほど、金融機関の見方が変わる傾向があります。「既存物件のキャッシュフローが黒字か」「残債比率が物件価値に対して適正か」が審査で重視されやすく、表面的な年収より実質的な収支を確認する金融機関も増えています。打診前に既存物件の収支サマリーを整理しておくと、ヒアリングがスムーズになるケースがあります。